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久しぶりに丸一日休みが取れた筒井は自宅のマンションで夜遅くまでパソコンゲームに熱中していた。
ゲームの途中で会社から支給されているスマホが鳴った。筒井は顔をしかめて通話ボタンをクリックした。
「もしもし、あ、はい、私です。え? 明日ですか? はあ、まあ、明日は渡研に行く日ではないんで、空いてますけど。ああなるほど、ポップカルチャーで街おこしってやつですか。朝直行でいいんですね。分かりました」
筒井はスマホを置くと大きくため息をついた。
「ま、たまには記者としての仕事もしないとね。朝早いからもう寝ないと」
翌日、筒井はパンツスーツに身を包んで、ノートパソコンとデジタルカメラを入れた肩掛けバッグを持ち、鉄道で目的地の近くまで行き、バスに乗り換えた。
バスの後部座席に座ってスマホで資料を確認する。
「へえ、新しい東京都心を形成……コンテンツ産業の集積地を目指す、か。なんかよくあるパターンの気がするけど、成功すんのかしらね」
バスが陸橋にさしかかったところで、運転手がけたたましくクラクションを鳴らし始めた。
何事か? と前を見る乗客たちに運転手が叫ぶ。
「お客さんたち! しっかり捕まって!」
直後に横方向の衝撃が走り、前方右側の窓の向こうに大型トラックの荷台が見えた。トラックの車体がバスの横腹をこするように接触し、バスの車体が斜めに揺れた。
バスは陸橋のガードレールを突き破って、下の道路に向かって落下した。乗客の悲鳴を聞きながら、筒井は視界が逆さまになるのを感じた。
さらに大きな衝撃を全身で感じながら、筒井の意識はすうっと薄れて行った。
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