第4新都心の悪夢

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 全身に広がるズキズキとした痛みをこらえながら筒井が身を起こすと、見た事のない光景が一面に広がっていた。  特徴のない似たような高層ビルが立ち並び、辺りは薄暗い。空は昼間なのだが、分厚く黒い雲が低く立ち込めている。かすかに光が強く見える部分が太陽なのだとすれば、今は正午ごろのはずだが、立ち込める分厚い雲のせいで夕方のような薄暗さだ。  街には人影がなかった。片側3車線の広く整った幹線道路が規則正しく走っているが、ところどころに物が燃えたような黒い跡がある。  立ち上がって自分の体の状態を確かめる。どうやらケガはしていないようだった。服も多少砂ぼこりが付いているぐらいで、動き回るのに支障はない。  だが持っていたバッグとスマホは周辺を歩き回ったがどこにも見つからなかった。  改めて街の全景を見渡すと、筒井はある不自然な点に気づいた。はるかに遠く離れた場所に、壁らしき物が見える。  その壁は筒井の近くにある高層ビルと同じか、さらに高いように見えた。筒井が位置を変え、街の四方の端を見ると全ての方向で遠くにその高い壁が見えた。  どうやらこの街全体がとてつもなく高い壁でぐるりと囲まれているらしい。そんな場所が日本に、少なくとも東京近郊にあるという話を筒井は聞いた事がなかった。  とりあえず人がいそうな場所を求めて、筒井はあてどもなく足を進めた。しばらく歩くとかすかに人の声が聞こえて来た。その場所へ向かって速足で進むと、ビルの一階の広場のようになっている場所に出た。  そこには数十人の人がいた。スペースのあちこちにどこかから拾って来たらしい鉄骨や板が組み立てられ、小さな屋台のような店がひしめき合っていた。  まるで写真で見た戦後の闇市のようだ、と筒井は思った。そこに集まっている人たちは汚れでくすんだ服を着て、顔は煤けたように黒ずんでいる。  筒井は近くの立ち飲み屋みたいな屋台をのぞき込んで中の主人と2人の男の客におそるおそる尋ねる。 「あの、すいません。ここは何という街ですか?」  屋台の主人がぎょっとした表情で筒井の顔をにらんだ。 「あ? 東京第4新都心に決まってんだろうが。おめえ、新入りか?」  客たちも好奇心丸出しで筒井を見る。 「ねえちゃん、壁の向こうから来たのか?」 「へえ、珍しいな。いや待て!」  片方の客がおびえた声を出した。 「おまえ、女だよな。どっちの人間だ?」
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