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筒井はキョトンとして問い返す。
「どっちのって……何の話ですか」
屋台の主人も青ざめた顔で問い詰める。
「フェミ族かオタ族か、どっち側の人間かと訊いてんだ!」
「ええと、あたしはどっちでもありませんが」
その言葉に主人と二人の客は、はっきりと聞こえるほどの安堵のため息をついた。主人が水の入った、薄汚れたコップを差し出しながら言う。
「なんでこの街に来た?」
「はあ、それがよく覚えてなくて。確かバスの事故に遭って、気が付いたらここにいて」
「ふうん、とにかくオタ族に見つからねえように気をつけな。フェミ族と間違われたら命はねえぞ」
その時、広場の隅で誰かが叫んだ。
「オタ族の見回りだ! みんな気をつけろ!」
屋台の主人はカウンターの奥からあわてて高さ30センチほどのパネルを引っ張り出した。それはいわゆる美少女キャラの萌え絵が描かれたパネルだった。主人は屋台の入り口にパネルを立てかけながら恨めしそうに独り言を言う。
「ちきしょう、俺たちはただ食っていかなきゃならねえだけなんだ。なんであいつらの戦いに付き合わなきゃいけねえんだ」
やがて、ザッザッという足音と共に、様々な年齢の男たちの一団が広場に現れた。他の屋台にいる人々は精一杯の愛想笑いで一団を見送る。
筒井の姿を見つけた一団が急に足を早めて近づいて来た。一人の男がゴルフバッグを開き、中から取り出した物は自動小銃だった。
男たちは筒井をぐるりと取り囲み、銃を持った男がその銃口を筒井に向ける。屋台の主人と客たちは、震えながら走り去った。
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