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礼拝堂のランプが、ユラリと揺れた。
「……陛下。そろそろご寝室に戻られては如何かと。後は、我々神官たちが見張りますゆえ」
大神官コクォルツが、じっと目を閉じて椅子に座り込む国王を気遣う。
だが、国王ベルンシェルグはその場から動こうとはしなかった。
「大神官よ、ひとつ聞こう。そなたはこの問題に対して『絶対的な正解』があるとすれば、それは何だと思う?」
「それは」
少しの間を置いて、コクォルツが姿勢を正す。
「言うならば、あえて魔物を復活させ、その上で討ち取ることでございましょうな。さすれば後顧の憂いは無くなります。されど……」
「そうだな、そなたの言う通りだ。魔物を討ち取れば済む話よ。されど我が国にそこまでの強力な兵器はないし、卓越した魔導師もおらぬ。復活した魔物を討ち漏らせば、今度こそこの国は魔物に飲まれる……」
確実に勝てるという保証もないままに、勝負に出る訳には行かなかった。……国王として。
「結果として、私は先例を踏襲してこの問題を先送りするしかなかったのだ」
うなだれる呟きは、己の罪に対する懺悔であろうか。
と、その時だった。
「……ん?」
大神官が、女神像の方に視線を向ける。
「どうした?」
「いえ……何か、扉の向こうから物音がした気がしまして」
二人で息を殺し、じっとしていると。
ズン……ズズン……。
扉の奥から、微かに何かの物音が聞こえててくる。
「ま、魔物か!」
国王がたじろぐ。
「い、いえ、そんなはずは! ヴェルシェル様は階下へ向かわれましたし、この4000年間それで魔物が収まらなかった事はございません!」
だがしかし、椅子の背もたれにも確かな振動が伝わってきだしたのだ。……地下から!
「陛下! 何はともあれ、ここを脱出いたしましょう! 万が一があってはなりません……衛兵ぇ! 衛兵はおるか!」
慌てて、礼拝堂の周りを警備していた衛兵を呼び寄せる。
「よいか、ワシと陛下は城の見張り台へと身を隠す。そなた達はもしもあの扉から魔物が出てきたのであれば、それを城郭の外にまでおびき出すのだ!」
「いやしかし!」
衛兵長が待ったをかける。
「それだと国土に魔物を解き放つ結果に!」
「ええい、馬で引き付け国境から向こうに追い出すのだ!」
大神官が杖で衛兵長の肩を叩く。
「……よいか、魔物を討ち取るのは容易ではない。ならば最低限、我が国土から出ていってくれればよいのだ。……分かったか?!」
「は、はい……」
血の気の失せた顔の衛兵長を尻目に、大神官と国王は慌ててその場を後にした。
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