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国王と大神官は礼拝堂を後にし、大急ぎで城へと上がって見張り台から下を窺う。
すると。
「おお! 陛下、あれを!」
大神官が指差した先で、礼拝堂からバラバラと衛兵が逃げ出していくのが見える。
「出た……か!」
次の瞬間、礼拝堂が大きく揺れ、轟音を立てて瓦解した。そして、その中から姿を現したのが。
「おお……あれが魔物か!」
まるで蜘蛛のように長い手足。禍々しい巨体が暗闇にうごめいている。
「うむ、何とか衛兵が外まで引っ張ってくれれば……!」
大神官がその成り行きを見守るも、その魔物は威嚇する衛兵たちを全く意に介する様子はなかった。のそのそと動き出すや否や、国王と大神官のいる塔にしがみつき、そのまま塔の外壁を登り始めた。
「何っ! こ、こっちに来るぞ!」
慌てて逃げようとするも、見張り台の扉はまるで釘で打ち付けたかのようにビクともしない。
「あ……開きません! これはもしや!」
大神官が呪文を唱えると、木製のドアに複雑な魔法陣が浮かび上がった。
「これは永久施錠の魔法! 詠唱なしで放ったか! おのれ魔物め、何たる呪力……だ、だめです! 通常の解錠の魔法では歯が立ちません!」
大神官が必死に呪陣を放つも、業火に投じる氷が如くに溶け消える。
「馬鹿な! な、何とか……」
ふっ……と、自分たちの頭上に影が迫った。
恐る恐る振り返った先に、巨大な人の姿をした『闇』が。
「こ……これが魔物……?」
間近に見る『魔物』は何かが変だった。まるで何かが複雑にくっついたかのような……?
「うう……っ! こ、これは!」
暗闇に慣れた大神官の眼に、ハッキリとそれが見えた。『魔物』の身体を構成しているのは、何人もの人間……それも『少女の身体』だったのだ。
腕も、胴も、頭も、その全てが『少女の身体』が粘土のようにくっついて出来ている。
「まさか……これは! 乗っ取られたのか!」
大神官は、その『異形の理由』に思い当たった。
「ま、魔物は最初の少女『ヴェル』を餌にしました! そのためヴェルの肉体は魔物の一部になったのです。そして次の『ヴェルギィ』を始めとして、少女達は次々に魔物の血肉となり……遂にはその全てが、『犠牲になった少女の身体』と置き換わったのでは!」
そして今宵、『最後まで残っていた魔物のパーツ』がヴェルシェルと置き換わったのだとすると。
「おお……これは魔物にあって魔物にあらず! 歴代の『犠牲の女神』! その集合体に相違ありませぬ!」
『犠牲の女神』が見張り台に上がり込み、へたり込む二人の前に立ちふさがる。
「う……うわぁぁ! く、来るなぁ!」
ガタガタの震える国王に、巨大な掌が迫ってきた。
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