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俺の名前は島沢尚斗。
父は普通のサラリーマン。
母も普通の専業主婦。
あ、しかし普通よりちょっと裕福だった。
母方の祖父が金持ちで、両親が結婚した時には家を建ててくれたとか。
母が妊娠した時は、生まれてくるのは女の子と信じて疑わなかったらしく、ピアノも買ってあった。
それに倣ったのかどうか、女の子が欲しかったらしい母親は、俺に三歳からピアノを習わせた。
「女の子が…」
と、よく耳にしていたせいか、数年後には妹ができるものだとばかり思っていたが、結局俺には弟も妹もできなかった。
残念。
ともあれ、ピアノは俺の性格に合ったのか…辞めたいと思う事なく、バイエルもソツなくこなした。
初恋は小学三年生の時。
運命的な出会いだった。
何度目かのピアノ発表会。
ステージを終えて、控室へと戻る通路で。
ドン
何かに、ぶつかった。
するとそこには、ヒラヒラのレースが何重にもなったようなスカートをはいて、見事に仰向けに転がってる女の子。
「あ…」
俺にぶつかって転んだのか。
そう思って、手を差し出したが…
「う…」
「う…?」
「うわああああああん!!」
「……」
…泣かれてしまった。
「大丈夫?怪我はない?」
ここはお兄さんらしく…と思い、女の子を抱き起す。
頭についたリボンを見て、昔読んだ『不思議の国のアリス』みたいだと思った。
色が白くて、ふわふわした髪の毛。
この子も発表会に出るのかな?
「お父さんかお母さんは?」
目線を同じにして問いかけると。
その子は止まらない涙を少しだけ我慢しながら。
「ふっ…うっ…うっ…」
言葉にはならなかったけど、『あっち』と、指をさした。
その『あっち』に目をやると…そこは、VIPの控室。
「…君のお父さんかお母さん、先生?」
聞くと、首を横に振る。
…誰だろう。
「行こうか。」
手を差し出すと、女の子は素直にそれを握り返した。
…可愛いなあ。
妹がいたら、こんな感じなのかな。
俺はその控室のドアを、ノックをした。
『はい。』
「あの…女の子が泣いてて…」
そう言うと、ドアが開いて…
「まあ、るー。どこに行ってたの?」
中から…
天使が出て来た。
俺の初恋の人。
俺の天使。
武城、桐子
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