4/5
前へ
/16ページ
次へ
 プロポーズは二週間後に。と言われた。  …ああ、面倒だな。  と、内心思った。  俺的には、盛り上がった瞬間にパパっとやってしまいたかったのに。  愛美は、まだどこか夢見がちなのだろうな…と思った。  …こんなので、俺達上手くいくのか?  そして、やって来たプロポーズ当日。  ぶっちゃけ、仕事から帰るのが嫌だった。  何も決めてなかったから。  …顔を見て、その瞬間に想った事を言うしかない。  家に帰ると…愛美はいつもと変わりなく、晩飯の支度をして待ってくれていた。  二人でゆっくりと食事して…俺は、心に決めた。 「愛美。」 「…何。」 「こっちへ。」  愛美をソファーに座らせる。  そして…ピアノの前に座って、弾き始めた。  英雄ポロネーズ。  怖くて愛美の顔は一度も見なかった。  こんな、他人のネタをどうするつもりだ!!って叱られるかもしれない。  マノンがるーちゃんのために弾いた事は、有名な話だ。  …俺は、マノンみたいに苦労せず、これが弾けてるわけだし…  弾き終えて、賢人に視線を落としたまま口にする。 「…何だろうな…これが弾きたくなった。」 「……」 「愛美…ずっと、寂しい想いをさせて…本当にごめん。」 「……」  愛美は、ずっと冷たい顔をしてる。 「これから…もし、俺達にこれからがあるのなら…本当に、なんでもする。愛美の言う事、なんだって…言う事聞く。だから…」  俺の言葉を無言で聞いてた愛美は、突然大きな溜息をついた。  …今の溜息は…  ちょっと傷付くぞ?  愛美はソファーから立ち上がると。 「…どいて。」  俺をピアノの前から押し避けた。 「え?」 「座ってて。」 「……」  ソファーに座って愛美を見る。  うちで愛美がピアノを弾いてる姿は…見た事がない。  愛美はゆっくりと鍵盤に指を落とすと… 「え…」  天使の曲を弾き始めた。 「……」  途方に暮れた。  愛美のそれは…決して上手くはなかったが…一生懸命さは…十分伝わった。  俺がほったらかしてた間に…おまえ、一人で練習してたのか?  分からないなりに…分かろうと努力してくれてたのか?  …ダメだ。  俺には、何の資格もない。  下を向いてると…自然と涙が出た。  ああ…何だろ、これ。  俺、泣くとかいう感情、あったんだ。  愛美の下手くそなピアノを聞いて、泣いてるなんてな…  よく考えるとおかしいんだけど。  …泣ける。  泣けて、仕方ない。  愛美はピアノを弾き終えると。  うつむいたままの俺に向かって言った。 「…ナオトさんのピアノ、全然響かなかった。」 「……」 「ただ上手いだけのピアノを、あたしに聞かせたかったの?」  …何を言われても仕方ない。  俺…  最悪だ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加