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 胸を撃ち抜かれた、あの9歳の発表会から4年。  俺は中学生になった。  周りがアイドルに夢中になってるその時、俺のアイドルは武城桐子だった。  天才ピアニストとして世界的に有名な、武城桐子だ。  あの控室で、武城桐子は俺にお菓子をくれた。  そして、娘を助けてくれてありがとう。と、優しくハグしてくれた。  いい匂いがした。  洗剤とか、石けんの匂いじゃない。  もっとこう…  上品で、洗練された女を想わせるような…  と、9歳のガキがそこまで分かるはずはなかったが、とにかくいい匂いがした。  部屋に貼るポスターは、もちろん武城桐子。  レコードも買った。  リサイタルも見に行った。  家も突き止めた。  なんなら俺は軽くストーカーだ。  それほどに、彼女に夢中だった。  いくら俺が、彼女の娘との方が年が近くても。  相変わらず、クラッシック畑一筋だった俺に、転機が訪れたのは。  中2のクラス替えの時だった。 「…シマウマ、おまえの荷物が俺の所に入ってた。」  俺…島沢より一つ前の席だと思った島馬(とうま)は。 「は?」  半笑いで俺を見て。 「俺、シマウマじゃねー。トウマだし。」  って…机を蹴った。 「は?」  俺は蹴られた机を蹴り返して。 「ルビふっとけよ。」  内心ビビりまくってたクセに、頑張ってみた。  これが…島馬(とうま) 永治(えいじ)との出会い。  一触即発の空気に。 「まあまあ、シマウマもトウタクもやめろよ。」  変な呼び方で突っ込んできたのが… 「おもしろくねー!!」 「えっ、イケたと思ったのに…」  相川(あいかわ) (みつぐ)だった。  のちに、この二人と俺はバンドを組む事になる。  しかも、ロックバンドだ。  俺の人生であり得ない事が起きた。  まさか、俺がクラッシックを捨てるなんて。  だけど…  武城桐子のリサイタルだけは、まだ…行っていた。  彼女はその頃三十代で。  かなり…大人の女としての色香に溢れていて…  俺の妄想を駆り立てた。
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