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「ナッキー!!おまえすごい!!鳥肌立った!!」  俺のテンションがこんなに上がったのは、いつぶりだろう? 「えっ…」  俺に抱きつかれたナッキー…こと、高原(たかはら) 夏希(なつき)は目をパチパチさせた。 「すっげーいい声!!」  いや、マジで!!  前回の練習の後、ナッキーはロックを知らないと言って俺たちを驚かせた。  そこで俺は、バンドでもカバーしてるDeep Purpleのカセットを貸した。  ナッキーはそれを聴いて、歌詞を書いて来た。  …カッコイイ筆記体。  俺はその紙を見て。  コイツ…どこまでもカッコイイ奴だな…と、歌う前から思ったのに。  合わせた『Burn』で。  完璧な英語と、完璧なシャウトを聴かせてくれた!!  まさに!!  俺が思い描いてたボーカリストだ!!  同じ歳ではあるが、この時からナッキーは俺の憧れの人物となった。  口が裂けても言わないが…まあ、長い付き合いになって、ヨボヨボの爺さんになった頃なら、笑い話の一つでも…と、打ち明けてもいいかな。  それから、俺達はギタリスト探しも始めた。  ナッキーの彼女の実家に泊めてくれると言うし…夏休みを利用して、大阪に行った。  俺がついて行くのが不満だったのか、彼女は隣の部屋に俺がいるのを知ってて…大きな喘ぎ声を出した。  その頃、まだ経験のなかった俺は、早熟なナッキーにますます憧れ。  さらに、女の喘ぎ声を…俺の天使に当てはめて…ああ、なんて下衆な事をしてしまったんだろう。と、ほんの一瞬後悔した。  ともあれ、ギタリストを探しに行った大阪で。  そこで…また運命的な出会いがあった。  朝霧(あさぎり) 真音(まのん)。  若干15歳。  ナッキーの『あいつが欲しい』の一言で、俺達は彼に声をかけた。  合わせてみる事になり…また『Burn』を。  ぶっちゃけ、俺は唸った。  マノンのギターも当然凄かったけど…  ナッキーの歌だ。  こいつ…ロックと出会って、まだ一年。  どこかで勉強したわけでもないのに、こんなハイトーンでシャウトをしても、ノドを壊したと聞いた事もない。  ナッキーといい…マノンといい…どうしてこうも、Deep Purpleを自分のものにしてるんだ。  俺にとって、二人はいい刺激になった。  それは、永治(えいじ)…あらため、ゼブラとミツグにも。  そうして、俺達Deep Redは五人編成になった。  マノンが言った『プロ目指してるバンドじゃないと入らない』に感化されたのか。  ナッキーまでが、プロを目指すと言い始めた。  おいおい、嘘だろ。  って、正直思ったよ。  だって俺は…  まだ継続中の、武城(たけしろ) 桐子(とうこ)への初恋。  彼女に近付けるよう、オーケストラに入ろうか…などと考えていたのであった。  俺は一人っ子。  ナッキーには兄と弟が居るが、それは養子に来てから出来た兄弟だと聞いた。  ゼブラとミツグには兄も妹もいるし、マノンにいたっては四人兄弟の末っ子。  育った環境や家族構成は大きく性格に影響する。  それがハッキリ分かったのは…  ナッキーが意外と真面目で、誰よりもバンドを大事にしていると分かった時だった。  苦労をしているからこそ、人が大事にする物も、自分が大事にする物も…守りたいと思える。  そんな俺は、ピアノ相手にしか育ってないせいか。  常に人間観察をしてしまってた。  自由奔放で甘え上手なマノン。  上手に乗っかるゼブラとミツグ。  何か閃く事があるのか…ナッキーは誰かの意見に即便乗したり、違うと思っても他の手段を見つけたり。  とにかく、決断が早い。  俺が女なら、間違いなくナッキーを選ぶ。  マノンがこっちの高校に合格して上京し、ライヴも回数を重ねて、Deep Redの人気も出始めた。  それに伴い…俺は、天使のリサイタルにも行けなくなった。  スタジオ練習が入るからだ。  …会いたいのに…(会うと言っても観るだけ)  何とか…オーケストラに入らなくても、お近付きになる手段はないだろうか。  と、考えていた時。  ふと、思い出した。  あの、不思議の国のアリス。  今…いくつぐらいだ?  家も知ってるのに、天使に夢中で…娘の存在なんてすっかり忘れていた。  …娘と付き合ったら…  天使と会える。  俺は邪な気持ちで、天使の娘。  武城(たけしろ) 瑠音(るね)と付き合う手段を考えた。  しかし…  調べてみると、彼女は14歳。  …中学二年生…  う~ん…  高校三年生の俺から見ると、中学二年生の彼女は…付き合う以前に…  まだ子供。  天使に一目惚れしたぐらいだ。  どう考えても、俺の好みは年上だ。  しかも、よく考えると…自分の母親と、さほど年齢が変わらない。  しかし、母は母。  天使は天使。  14歳…  ないな。
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