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それから二年。
俺達に、アメリカデビューの話が持ち上がった。
マノンやナッキーはプロになる。と断言していたが、俺はどこか他人事のように聞いていたかもしれない。
実際、俺には『もしデビューできなかったとしても』の就職先もあった。
結構ずるい奴だ。
だけど、相変わらずバンドメンバーの事は好きだった。
好きというと怪しく聞こえるが、本当に微笑ましい連中だ。
ヤンチャなマノンに、ちゃっかり者のゼブラとミツグ。
頼れるナッキーと…腹黒い俺。
なんて言うか…
マノン以外は同じ歳だけど、五人兄弟とか、家族とか。
そう言う感じだと思った。
時々マノンがナッキーに迷惑をかけるものの、ナッキーはマノンを怒らせるほどピシャリと言いながら、いつもマノンを気にかけて可愛がる。
いいなあ、マノン。
俺だって、ナッキーに可愛がられたいぜ。
と、口には出さなかったが、思った事は何度もある。
とは言っても、俺に同性愛の気はない。
そろそろ、天使の娘が高校生になった頃だ。
少しは恋愛対象になっただろうか。
俺がのんきにそう思っていた頃。
彼女は、狩人に仕留められていた。
そこに女がいれば、すぐに腰を振ってた男。
マノンに。
ナッキーから、その噂を聞いた時は…正直力が抜けた。
天使に近付く手段が、一つ消えた。
…のんきな俺が悪い。
仕方ない。
ちなみに、適当に付き合っていると言うか…興味本位でセックスをする相手は何人かいた。
いわゆるセフレってやつだ。
そのセフレも、みんな年上。
下は一つ年上から、上は一回り以上上まで。
これは誰にも言わなかった。
俺は、誰にも腹を割らない。
信用してないとかじゃなくて…自分を見せるのが嫌だから。だ。
まあ…いつか自分を小出ししていく時が来たとしても…セフレの話は、しないなあ。
たぶん。
それにしても。
天使の娘。
不思議の国のアリス。
マノンと、付き合っていけるのか?
マノンは…
相当なプレイボーイだぞ?
気にしてる割には…俺の中で天使の娘は、長い間…幼いままだった。
…あの時は可愛かったが…
今はどうなんだろう?
まあ、マノンが目をつけるぐらいだから、不細工ではないのだろうが。
ナッキーの弟の結婚式にいた。と、後で聞いて、軽くショックを受けた。
とても可愛くて、マノンがデレデレになっていたと聞いて、さらにショックだった。
そんなマノンはなかなか見れない。
いつか何かのネタとして、見ておきたかった。
きっと、渡米したら終わるだろう。と思っていた、マノンと天使の娘の関係は。
意外にも…マノンが本気になった事で続いていた。
そんなある日。
「ナオト、英雄ポロネーズ弾ける?」
マノンにそう言われて、目の前で軽い気持ちで弾き始めると。
「…それ、俺にも弾ける思う?」
真顔で言われて驚いた。
天使の娘の父…つまり、天使の夫が…
「娘の彼氏は、英雄ポロネーズが弾ける奴やないとあかん言うてるらしい…」
マノンの言葉に…
「へえ。じゃ、俺はその子の彼氏になれるなあ。」
笑顔で答えてしまった。
それが癪に障ったのか…
マノンがピアノの師匠に選んだのは、俺ではなくて女性ピアニストだった。
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