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「俺の初恋はさ、マノンの義理の母親だよ。」  ナッキーの育ててるヒヨコちゃんのステージを見ようと、Lipsというライヴバーに行った。  ダリアを思い出させる、懐かしい雰囲気だった。  そのカウンターで初恋話なんぞに盛り上がって…打ち明けた。 「…マノンの義理の母…って事は…」 「るーちゃんのお母さん。」 「………おまえって…謎の多い奴。」  ナッキーは目を丸くして笑って、何度も首を横に振りながらグラスを手にした。 「それって、いつまで好きだった?」 「今もチャンスがあれば、なんて思うけどな。」 「…マジかよ。愛美ちゃんが聞いたら泣くぜ?」 「…もう泣かせてるよ。」 「え?」 「いや…それより、ナッキーの初恋かあ…ははっ…」  ステージが始まって。  ナッキーの育ててるヒヨコちゃんが出て来た。  肩の出た青いドレス。  茶色い長い髪の毛。  …若い娘だな…  意外な気がした。  ナッキーは俺ほどじゃないが…年上が好きだ。  と、思っていたから。  今までの彼女も、周子さん含め…みんな落ち着いた感じの女性だった。 「……」  いい声をしてる。  歌が始まった途端、俺の背筋が伸びた。  ピアノの弾き語り。  …これはー…  ナッキーが力を入れるわけだ。  上手いとかそういうのじゃなくて…入って来る。  ナッキーを見ると、完全に…これは恋してる目だよなあ。  ステージが終わって、ヒヨコちゃんが会いに来てくれた。  話してみると日本人だわ、愛美より一つ年上の21歳だわ…いや、見た目は完璧十代と言ってもいいぐらいだったが…  ちゃんと、人の目を見て会話のできる…  そして、気持ちのいいほど、ハキハキと答えてくれる…  伸びた背筋が、これまた気持ちいい。  …この娘は、まだ恋愛経験はないんじゃないか?  ふと、そんな事を思った。  男に対して、警戒心がないと言うか…  無防備だ。  実際、俺の方からしか見えないドレスのスリットから、太腿が覗いてるけど…  本人は全く気にしていない。  て言うか…  色気ないなあ…この娘。  ナッキー、このヒヨコちゃんでいいのか?  そう思いながら会話してると… 「でも、なっちゃんには、いつもダメ出しされるの。」 「……」 「…え?」 「なっちゃんって、ナッキー?」  俺は、いい事聞ーいーたー。って顔をしたと思う。  実際、帰りにそう呼んでやろうとも思った。  ナッキーは目を細めながら。 「…すげーな。俺をそんな風に呼んでるのは、世界でおまえだけなんだぜ?」  そう言って、ヒヨコちゃんの頬を掴む。  すると… 「……」  ヒヨコちゃんが、真っ赤になった。  …なんだ。  こいつら、相思相愛じゃん。 「…ちょっと俺、急用思い出したわ。先に帰る。」  そう言って、俺は店を出た。  周子さんとは、夢中になるって恋には思えなかった。  だけど…きっと今、ナッキーは夢中だ。  …ヒヨコちゃん…  さくらちゃんに。  …ちょっと、羨ましい。
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