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 相変わらず、俺と愛美(まなみ)は仮面夫婦状態。  ナッキーはさくらちゃんと暮らし始めて…絶好調。  新しい曲もガンガン書いてくるし。  歌の面では、いつもながら何も問題はない。  本当に感心するのだが…  ナッキーは、バンドを組んで一度も風邪をひいただの、ノドの調子が悪いだの…とにかく不調を訴えた事がない。  本人は普通のつもりでも、ん?と思うような事が一度だけあったが…それは、本当にメンバーにしか分からないような小さな事だ。  体が丈夫なのもあるかもしれないが、ナッキーのプロ意識と言うか…  見えない部分で努力してる所…本当に尊敬する。 「…え?」  それは、ナッキーが絶好調になって一年経った頃だった。 「周子(しゅうこ)が産んでた。」  …なんと。  周子さんが、ナッキーの子供を…  産んでた。  過去形。 「今、七ヶ月。」 「……」  これには、メンバー全員が言葉を失くした。  基本、ナッキーは子供好きだと思う。  だが、自分の子供は要らないと言い続けていた。  それを知っていたであろうはずの、周子さんが…  しかしそこは、いつも気持ちのいい男。 「子供が生きにくい環境を作りたくない。」  別に黙っててもよさそうなものを。  そんな理由で告白するなんてなあ…  だけど、さくらちゃんには打ち明けられないままだったらしく…その夏、俺は初めて絶不調のナッキーを見た。  事務所にいても、誰とも喋らない。  下ばかりを向いて、ナッキーの溜息でこちらが滅入りそうなほどだった。  …バレたんだろうな。  何となく、そう察した。  さくらちゃんとの事は、俺しか知らないようだったが。  マノン達も、一緒に暮らしてる存在がいる事には気付いていて。  ナッキーの調子が戻らないようだとしたら…一度家に押しかけてみるか…などと言っていた。  まあ、そういう事をしなくても…ナッキーは何とか自力で上を向いて、復活した。  …俺は、まだ、愛美とスッキリしない関係のままだと言うのに。  そんなある日。 「…何これ。」  俺は一枚のチケットを手に、瞬きをたくさんした。 「確かナオト、ファンや言うてたやろ?」 「あ…ああ…」  チケットは…天使のリサイタルの物。  しかも…  めちゃくちゃいい席じゃないか!! 「光史(こうし)が、麻疹になってん。うつしたらマズイし、行くのやめとく言うて。なら、ナオトにどうかって。」 「……さ…サンキュ…行かせてもらう…」  しかし。  チケットは二枚。  愛美と…行くって事だよな…  天使を見ている俺を、愛美には見られたくないと思った。  だいたい…愛美は俺がピアノを教えた事もあるし、就職活動のためにピアノを習っていた事もあるが、公演を見に行くほど音楽にしろピアノにしろ…興味はない。  …しかし、仕方ない。  愛美と行くしかない。  帰って、愛美にチケットを見せながらその事を話すと。 「ふうん…あたしはいいよ。ナオトさん、行ってきたら?」  意外にも、そっけない言葉。 「…ああ、分かった。」  ここ数年の俺達の様子で言うと…俺が何かに誘ったら、愛美は手放しで喜んでいたが。  …そろそろ、この状態に限界を感じているのかもしれない。  もう、どれぐらい愛美を抱いてないだろう。
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