悪癖と最愛

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悪癖と最愛

「ごめんなさい。もうしません。」 俺は今、とある男に土下座をしている。 何故かというと、女といるのがバレたからだ。 しかもキスの現場(カラオケルーム)に踏み込まれてしまったから言い訳も出来ない。 それでも、何故男に頭を下げているのかというと、この男は俺の最愛の彼氏だからである。 ぶっちゃけどうしようもないくらいベタ惚れているんだが、何故か毎回浮気をしてしまう。 そしてこれまた何故だか運命の悪戯なのか、毎回見つかる。 別に彼氏が俺をストーキングしてるとか、発信機仕込まれてるとかそういう事ではなくて、本当に毎回、偶然。 彼氏が友達と集まってる場所とか仕事中通りがかった場所とか、あらゆる場所に居合わせるか、女と入っていくのを見られてしまう。 だから毎回未遂なのは残ね…いや、不幸中の幸いなんだろうな。 もし実際にセックスに持ち込んでたりしたら、彼氏は俺を即、捨てるだろう。 肩にのった埃でもはらうように。目に見える。 俺は以前、学生時代にも、彼にそれで捨てられているからだ。 彼氏はその時、いともあっさり俺を捨てた後、鮮やかに姿を消した。 都会の大学に進学したと知ったのは、それから2年も経過してからだったから、彼氏の友人知人への箝口令の敷き方パネェ…と感心した。 それで、数年して偶然再会した時に俺が必死でしがみついて、頼み込んで復縁してもらったのだ。 そこ迄して付き合ってもらっているのに何故浮気(未満)をしてしまうのか…。 それはもう、俺が生来の女好きで、彼氏がイレギュラーな存在であると…そうとしか言いようが無い。 浮気相手の女の子達の事が好きとかそういう訳ではない。なんなら、顔も覚えないし名前も覚えてない。 只、女に誘われると断れない。 それだけ。 「篠井、やっぱお前は要らん。」 「えっ」 何時もならキスくらい迄は何とか許してもらえるのに、今日は何故か捨てると言われてしまった。何故だ。 背中と頬がひやりとする。 どうして?何時もなら… 「もううんざりだ。」 彼氏は土下座の姿勢で彼を見上げる俺を見下げて、苦虫を噛み潰したような表情で言った。 「何時もなら許してくれるじゃん、なんで?俺、反省してるし、一線は越えないように気をつけてるし…、」 「そういう問題じゃねえんだよ。」 何時になく苛立っている彼氏。 赦してもらえない、なんで? 何時もなら女の子の前や通行人の前で土下座したら、渋々だけど赦してくれるじゃん…。 何やかや、俺の事、嫌いじゃないじゃん…。 何時もと何が違うの? 「同じ事ばかり何時迄繰り返せば満足する? 俺はお前と付き合ってる限り、ずっと不快を我慢し続けるのか? お前に惚れてる訳でもないのに、俺が? いい加減にしとけよ、カスが。」 低い声。 わかってる、わかってるけど…。 「はぁ…。 お前が俺に惚れてるってのも、全く信じらんねえんだわ。」 「俺は凛くんが居なきゃ生きられないよ!!」 俺は叫んだ。 行動がこうだから全く信憑性が無いのは知ってるけど、本当にマジで俺は彼に惚れてるのだ。 これだけは嘘じゃない。 だけど、彼氏は呆れたように俺に言った。 「俺が好き?笑わせんな。 もういいって、そういうの。」 そして俺は、苦しそうに微笑んだ彼氏に引導を渡される。 「永遠にさよならだ。」 俺、何で変われなかったんだろう。 こんなに好きなのに。
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