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告白 (篠井side)
告白したのは学校帰りの路上だ。
帰っていく彼を見かけて、急いで後を追った。
後ろから呼びかけたら、振り向いてくれた彼は、俺を見て意外そうな顔をした。
「えーと…篠田?」
「篠井です。」
「…悪ィ…。」
まあ、想定内だったからそこ迄ダメージは無かった。
俺だって人の名前を覚えるのは苦手だ。
「あの、前に、助けてもらって…、ずっとお礼も言えなくて…、」
俺は柄にも無く緊張していた。
だって、普通の状況で彼と話すのは初めてだったから。
「前に?」
彼はやっぱり俺だと認識して助けた訳ではなかったようだった。
「繁華街の、路地で、4人に囲まれてたの、助けてくれたよね。」
「そんな事もあったような…?」
「あんな事、そんなに何度もあるの?」
「まあ、何度かは。」
やっぱり。
「あ、そういやいたな。やたらガタイが良いのにやられてた奴、あれお前だったのか。」
顔がボッコボコでわからなかったわ、と言われた。
まあ…何故か顔を集中的に殴られてたからなぁ。
「まあ、そんなに気にするなよ。じゃあな。」
礼を言う為に呼び止めたと思ったらしい彼は、そう言って去っていこうとした。
俺は慌ててそれを、手首を掴んで引き止めた。
「あ、あのっ、それとっ、」
訝しげに俺を見る彼の眼差しに、俺は緊張がピークに達する。多分、顔は真っ赤だった筈だ。とにかく熱かった。
人生でこれ以上ないくらいに緊張した。
「俺、その前からずっと橋崎の事、好きで!!」
「…好き?」
「好き!!付き合って下さい!!」
やっと言えた、と彼の顔を見ると、彼は何故か周囲を見回してキョロキョロしていた。
そして、俺にコソッとこう言ったのだ。
「え、罰ゲーム?」
俺はガクリと項垂れた。
初めての告白を罰ゲーム呼ばわり…。
「…違うよ…。」
そう言うと彼は、少し考えて、
「そうか。いや、篠井みたいな色男がさ、俺みたいな男に何を好き好んで、って思ってさ。勘繰って悪かったな。」
と謝ってくれた。
が。
「でも悪いが付き合うのは無理だと思う。ごめんな。」
と断られてしまった。
俺は目の前が真っ暗になった。
「なんで?俺が、男だから?」
涙が膜を張る。
それを見た彼は少し慌てて言った。
「いや、俺さ、中学でずっと部活三昧で、未だ誰かと付き合ったりとかってした事ねえんだよ。
だから篠井みたいな奴には退屈だと思うから。ごめんな。」
「えっ…」
それを聞いて俺の心にはパアッと光が。
初めて…。初めて、だと?
え、という事は、もし彼と付き合えたら、デートも手を繋ぐのもキスもセックスも、全部初めてが貰えるって事…?
諦めたくない、と思った俺は、俄然食い下がった。
その日から毎日、朝も昼も放課後も彼の教室や帰路で、ずっと付き合って欲しいと言い続けた。
すると1週間経った辺りで、彼が音を上げてくれたのだ。
「わかった。そんなに言うなら、俺で良いなら付き合おう。」
「ほんと?!嘘じゃないよね?!!」
「…おぅ…。」
「ありがとう!!!」
微妙に憔悴したような彼を他所に、俺は幸せいっぱいだった。
これから彼との幸せな日々が始まるんだと、そう思っていた。
それを、当の本人の俺が自分でぶち壊す事になるとも知らず。
いざ始まった交際で、俺は彼を好きになり過ぎていた事に気づいたのだ。
好き過ぎて緊張する。
大事過ぎて、傷つけたくない。
触れたら嫌われないか。
俺のやり方が不味かったら嫌われるんじゃないのか。
だって、全部がまっさらで初めてのきれいな子なんて、俺は相手にした事がなかった。
俺は無駄に遊びの関係だけを重ねて、大事な人の大切にしかたも知らない、タダの糞ガキだった。
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