繇ーヨルー

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黒曜石色のインクが宇宙(そら)に広がり、星々たちが瞬く。 草木も眠る静寂な時間 なかなか、寝つけないでいると静かにでも優しく部屋のドアがノックされる。 「ヨル、まだ起きているかい?」 「お師さま《オシサマ》…」 ドアが開き、燭台を持ったお師匠様が顔を覗かせる。 「その様子だと眠れないみたいだね。身体を起こせるかい?眠れる魔法をかけてあげよう。」 お師匠様が燭台をナイトテーブルに置くと、ベットの端に静かに腰かける。 蝋燭の柔らかい灯りが、お師匠様の整った顔を照らす。 「こっちにおいで。髪を梳かしてあげよう。髪に星の子が沢山絡まっている。」 そう言って引き出しからヘアブラシを取り出すと、優しく時間をかけて星の子が絡まった髪をゆっくりと梳かしていく。 絡まった髪が解ける度に、星の子が髪から解けてキラキラと瞬きながら天井に張り付き、小さな宇宙(そら)を創り出す。 「いつも言っているだろう?焦らずにゆっくりとヨルのペースで眠りに落ちれば良い。」 「…はい」 「今のヨルの修行は、この(ヨル 闇)をコントロール出来るようになること。ん〜そうだな…決まった時間に寝起きするのはどうだろう?そうすれば、寝坊が減ると思うのだが…」 痛い所を突かれてしまう 「う…頑張ります…」 星の子の大体が髪から解けると、絡まって張っていた髪が柔らかくなる。 「髪はこのくらいで良いだろう。次は横になってゆっくりと呼吸をしてみようか。」 お師匠様に言われて、それまで起こしていた身体を横にして力を抜く。 「少しは眠くなってきたかい?」 「身体は少し楽になったんですけど、あまりに眠くないです…」 私の返答にお師匠様が「困ったなぁ…」と小さな独り言をしながら、ポケットから何かを取り出す。 「バク印の眠り薬を塗ってあげよう。これで少しは眠くなるはず」 貝の器に入ったその軟膏は、眠りを誘う花の匂いがした。 「お師さま、それは何か入っているんですか?」 「これは確か…眠りの薬草のエキスと魔石の粉末が配合されてるとモルの奴が言っていたな」 「とても良い匂いですね…眠れそうです」 「それは良かった。目を閉じて」 目を閉じると瞼にヒヤッと冷たく感じる。 「…明日の朝は、ヨルの好きなパンケーキにしようね」 瞼に軟膏を塗り終わると、ゆっくりと私の頭を撫でる。 「お師さま…一緒に作りたいので明日は頑張って1人で起きてみます…」 私の言葉にお師匠様は、フフッ…と小さく笑う。 「それは…とても楽しみだ」 そっと、私の耳を撫でながらお師匠様が微笑む。 「お師さま…」 「ん?」 「眠るまで…傍に居てください…」 「あぁ…傍に居るよ」 程なくして、小さな寝息が聞こえてくる。 天井に張りついた星々たちがたわいもないお喋りをする事に、キラキラと輝く。 蝋燭の火の灯りに照らされた愛弟子の寝顔を静かに見守る。 我が家に何の前触れもなく、転がりこむ形でやって来た当初は日中は物音に、夜は闇に怯えていた。 打ち解け、会話が出来るまでとても苦労した。 まず、近付けない。近付こうとすれば激しく怯えて逃げ出す。 お互いにある程度、距離を取りながら心を近づけていった。 そんな中で、あの子の中にある(魔法)に気づいたのはここ最近の出来事だった。 そして、魔力のコントロールの修行を開始し始めて程なくして寝坊癖もついたのも、ここ最近の事だ。 きっと、自分で魔力のコントロールを出来ればとても優秀な魔法使いになるに違いない。 自室の窓辺に腰掛けて、夜の空気にあたりながらマシュメロウが浮かぶミルクを飲む。 温かなミルクに雲のようにふわふわでみずみずしい草花の香りが鼻腔をくすぐるマシュメロウのおかげで、身体が温まり眠気を誘う。 飲みかけのコップを窓辺に置いてから窓を閉める。 そして、静かにベッドに入りゆっくりと目を閉じる。 穏やかな気持ちで、夢の中に意識を手放し一時の無限の旅に足を延ばす。
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