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暗い夜の高速道路。市役所総務部特務課の緊急要請で六十分の完全封鎖がされた路上に私は立っていた。
『冬至くん、用意はいいか』
支給品のワイヤレスヘッドセットから特務課長の声が聞こえる。
「はい課長、こちら冬至水仙。二十一区外縁環状で待機中です」
最低限の私物と着替えの私服を耐衝撃バッグに詰めて背負った私は、市役所特注の体操着のような耐衝撃スーツと軽合金製の腕甲&脚甲、それにディスプレイ機能のあるゴーグル付きヘッドセットを身に纏っている。
実質フル装備の臨戦態勢だ。
『結構。本来ならば公務員が請け負うべき業務なのだが、いかんせん“流星”が別件で消耗したばかりで暫く使えなくてな。すまない』
「承知しています」
私は能力を買われて重宝されているけれども、あくまでアルバイト。本来重責を担う立場ではない。
『続きはミッションを行いながら説明する。首都方面ルートを確保しているので始めてくれ』
「了解。符丁、“烈風疾走”、発進します」
宣言と共に私は走り出す。
神経を、筋肉を、脂肪を、そしてそれらを包む“異能”、つまり“超能力”の全てを発揮し走り出す。
初動で時速四十キロ、十秒もしないうちに百キロを超え、すぐに自動車と並走するのも危険な速度に達するが市役所の事前折衝で私の進路は全て封鎖されていて走るのは私だけだ。
『およそ一分後に首都外縁環状へ突入するがその前にミッションを説明する。大丈夫か』
視界の外を飛び去るように流れるネオンサインを意識しながらひとりで頷く。
「問題ありません、どうぞ」
『本ミッションは中国地方で活動中の高天原財団大鬼門対策本部の駐在員への支援装備配送になる』
なるほど。なにかを届けろと言われれば私は相当に速いだろう。時速で言えば既に三百キロを超える勢いだ。だが、ひとつ問題がある。
「課長、手ぶらですが」
適量であれば荷物を持っていても走れるがそもそも荷物を持たされていない。今、支援装備を届けろと言われたはずだが。
『君に届けて欲しいものは途中で拾って貰うことになる』
「一旦中継地点で減速して荷を受け取れと」
私の加速能力と最高速はかなり希少な自負があるが、敢えて減速、あるいは止まるくらいなら東の首都の向こうから走らずとも最初からその周辺で運搬能力の高い超能力者がいたのではないだろうか。
『いや、減速はしない。受け取りについては別途プロフェッショナルを……』
課長の声にノイズが入り、ぶっつりと途切れ、代わりに割り込んできた音声があった。
『はろはろ“隠者”だよ初めましてじゃないね“烈風疾走”ッ!』
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