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年端も行かぬ少年のような軽快な声は。
「ArcanaWorksの“隠者”! どうして!?」
非合法営利組織ArcanaWorks。彼らは超能力者だけで構成され悪徳政治家や反社会組織に金銭と引き換えにその力を提供する、市役所とは言わば敵対組織のはずでは。
『どうしてと言われたら、キミんとこの課長さんと取引があったからかなー』
「取引……?」
『っと、その前に次のジャンクションで第二東名高速道へ抜けてね! 誘導灯出すよー!』
「りょ、了解」
路上に出ている誘導灯に沿って私は首都外縁環状を駆け抜け第二東名高速道へ入りさらに加速する。そろそろ時速六百キロを超えるくらいだろうか。万が一封鎖漏れがあったらと思うとゾッとする。
『えっと、で、なんだったっけ。そうそう! うちは“非合法”だけど“営利組織”だからね! きちんと支払ってくれるならいつでもどこでも誰とでも取引するのさ。だってその方が面白いじゃん? っていうのが“愚者”のモットーでもあるからね!』
治安部の第一級監査対象、非合法営利組織ArcanaWorksのリーダー、通称“愚者”の身元は不明とされている。総務部がそんな人物の関係者と取引してるなんてあっていいのだろうか?
「その愉快犯はなんとかならないのですか?」
あなたたちも苦労してるんじゃないの? という含みを込めた疑問を彼は笑い飛ばすように返す。
『ならないかなー。ボクらみんなが、そもそも彼の口車に乗った愚者なのさ! っていうか彼が創設者だしね!』
「あ、そう……そうですね」
ぐうの音も出ないとはこのことだ。
『ともあれ特務課長さんに代わってここから先はボクがナビゲートするよー! あとで高名な槍の写しを拾って貰うね。あーちなみに減速はしなくていいから! 次のジャンクション曲がって湾岸道に入るよ!』
電光掲示板が左を指示し私はそれに沿って進路を変える。
一切減速せずに走り続けてそろそろ時速は八百キロ近く。そのうち音速に届きそうだ。速度が乗ってくるとどうしても周りに影響が出る。私が蹴ったアスファルトは傷み始め高速道路を囲む防音障壁は割れんばかりに軋んでいる。
脚甲の裏の素材はかなりの衝撃を吸収しているらしいけれども、速度をあげるとどうしても路面を傷めてしまう。まだまだ改良が必要だ。
そしてここまで加速してしまうと視界もあまりあてにならない。私の超能力は動体視力まではカバーしてくれなかったのだ。ディスプレイに表示されたイメージがたよりになる。
「湾岸道に入りましたが標識通りの距離なら三分もしないうちに駆け抜けますよ。どこでどうやって荷物を受け取るのですか?」
海岸線のゴーグルのディスプレイに今後の想定経路が表示された。
『えっとね、三つ先のジャンクションから東名阪道に乗り換えて貰うんだけど、合流直後の直線でほんのちょっとキミを越える速度でほぼ並ぶように調整してブツを射出するよー!』
「え、後ろから追い付いてくるんですか? 槍……なんですよね?」
ちょっとでもズレたら刺さったりするのでは? 不安過ぎる。
『ドンピシャで平行に飛ばす案もあったんだけど、“烈風疾走”が張ってる防護障壁の外じゃキミが取れないからボツになってね!』
そう。生身が音速で移動して耐えられるはずがない。だから私の能力には【走行によって生まれる衝撃を私に通さない】ための防護障壁が存在していた。確かにこのスピードで外に手を伸ばせば、防護障壁の恩恵を失った私の指は大変なことになってしまう。
防護障壁は正面を起点に流線形に発生しているから私以上の速度で後ろから接近できれば内側に物を入れることは可能だけれども、ずいぶんと乱暴な方法だ。
『まー柄を外して穂先から茎までだけのヤツをしっかり専用梱包してるから大丈夫だよ!』
「は、はあ」
『ちゃんと手の届くところに飛ばすから簡単に取れると思うけど、キミと違って荷物は失速しかしないから取り損ねたらそれで終わりってとこだけ気を付けてね!』
「不安を煽るの止めていただけます!?」
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