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「いいのか、アカメ」    実りの季節は終わり、初雪が森を白一色に染めあげた冬の夜。  ザザは雪を食べようと舌を出して空を見上げているアカメに言った。  うたの小屋の前に、森で獲れたウサギを置いて、二頭は立ち去るところだった。  ほそく煙の上っている小屋の戸をアカメは開けなかった。  小さな台所で、うたが二人分の夕餉を用意している気配がする。 「弥一は勇敢な奴だ。ギザ十が向かって来た時、逃げずに向き合って倒した。優しいし、狩りもうまい。それに……」  アカメは雪が無限に落ちてくる暗い冬空を見上げた。  ギザ十を倒し、川下で回収したその皮と胆を持って弥一が無事にかえって来た時のうたの瞳を思い出していた。 「それに、なんだよ」  ザザは再び雪を捕まえようと飛び跳ねている金色の弟狼に訊いた。  いつまでたっても雪にはしゃぐクセは抜けないらしい。 「行こう、ザザ」 「待てよ、アカメ」  群れは明朝、尾根を越えて南の森へ移動する。  獲物がゆたかで、凍らない沢があるからだ。  またこの森へ戻ってくるかどうかはわからない。  アカメはうたの暮らす小屋を振り返った。  小さな戸口が開き、灯りの中に小柄な人影が浮かぶ。  薪のの束を抱えて戻る途中、ウサギに気づいて森を振り返った。  暗い森に狼の姿を探している。  アカメは一声、長い遠吠えをして別れを告げた。  雪明りの薄暗い森をゆく、金色狼の姿をうたは捉えることができなかった。  
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