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6
翌朝、弥一は陽が昇る前に家を出た。
森に入り、藪を払いながらしばらく歩くと、木立の向こうを並走するように金色の狼が歩いているのに気が付いた。
とっさに熊槍を構えた弥一だったが、その赤く輝く瞳にはたしかに見覚えがあった。
「アカメ?」
ためしにそっと呼んでみた。
「お前なんだろ、アカメ」
金色の狼はゆるく尻尾を振った。
「驚いたな、うたがお前の正体を話さない訳だ」
そこからは、アカメが先に立って歩く形になった。
弥一は緊張した。
うっそうとした森の中、周りを囲む狼たちの数がだんだん増えてゆく。
アカメと弥一をつかず離れずの距離で追尾してくる。弥一はまるで自分が彼らの獲物になったようで落ち着かなかった。
今はアカメの牽制が効いているが、別の機会に出会ったら、狼と人は互いに狩り合う間柄に戻る。
「気を付けろ、ここはもうギザ十の縄張りだ」
アカメが弥一を見上げて警告した。
弥一はうなずき、気を引き締めて周囲に目を配った。
広葉樹の幹の高い所に爪を研いだ傷が残っている。
立ち上がったギザ十の大きさを思い出して、弥一はぞっとした。
あの凶暴で獰猛な巨大熊を本当に倒せるのだろうか。
ふと、恐怖に駆られ、弥一は後ろを振り返りかけた。
「怖いか?」
アカメが訊いてきた。
「おっかないな」
正直に、弥一は答えた。
アカメはしばらく黙っていたが、
「俺もだ」
と応じた。
それを聞いて、弥一はなんだか安心した。
森を抜け、尾根を登り切るころには、陽は真上になっていた。
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