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この冬に感謝しよう
しがない社会人の僕は、雪がしんしんと降る冬の深夜に散歩をしている。
という小説風の始まりを頭の中で想像しているが、一行満たす前に消えてしまう。
正直に言おう。なんだこの寒さは。ありえない。マジでありえん。この寒さを絶対零度と表現しても許されるだろう。
こんな寒さの前では、脳内でどれだけの気持ちを文にして起こしても即座に寒さという消しゴムで消されてしまうだろう。
この瞬間だけ人類代表として責任を持とう。
この寒さを取り除くためではないが、持っていたウイスキーの酒瓶を呷る。
僕は決してお酒が強いわけではないが、弱いわけでもない。そうでなければウイスキーをそのまま呷るなんてことはしない。
しかしまぁ、とりあえず普段着だけで深夜の冬をぶらつくというのはやはり来るものがある。
いや、来てもらわなければ困るのだけど。
数十分した所に小さな公園がある。僕はそこにたどり着き、夜が明けるまでをこのウイスキーと共に過ごそうと思う。
もっと夜を過ごすにふさわしい物や相手がいるとは僕自身でも思うのだが、こればかりは選んでいられなかった。
誰だ、お前友達すらも怪しいとか言った奴。おいちゃん怒らないから出てきなさいよ。
なんて独り芝居をしていたら公園に着いた。
雪の積もったブランコにそのまま座り再び瓶を呷った後、近くに立てて置く。
いい感じにお酒が体を回ってきた。
せっかくだからこのままブランコを漕ぎ始め
せっかくだから良い高さまで漕いだらジャンプをしてみた。
せっかくだからカッコよく着地もできないかと思ってみたが、僕を待っていたのは着地の失敗とそのまま地面に倒れる運命だった。
たぶん、着地した時の足の感じからしてねんざしたかもしれない。
最期の最後まで格好つかないな僕。
幸いな事に痛みはあまりなかった。鈍痛があるぐらいだ。
ねんざした足を引きずるようにして酒瓶を手にとってまた呷る。
明日を迎えたら確実に二日酔いになってるだろうなぁ。
そうして僕は、雪の積もったベンチに座った。
僕の体温はもうお酒の存在感を示すだけになっていて、雪の上を座っても冷たいと思わなくなっていた。
道中で何度も呷っても酒瓶の中身はまだ半分ぐらいしか減っていない。気持ちもっと行ってたと思うんだけど、まぁいいや。
僕は酒瓶を足元に立てて置いた。
そして目を閉じる。
お酒の力もあってか、寝てはいけないなんていう本能を簡単に抑え込んで僕を夢な世界に連れて行ってくれるようだ。
この冬に感謝しよう。
久しぶりの心地よい眠りだ。きっとこの雪も羽毛布団のように僕を包み込んでくれることだろう。
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