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オペレーション・リヴァイアサン
オペレーション・リヴァイアサン
何から始めようとして、何も始めていないときの充実感。
それは確かに。
病院の精神科病棟 ここら辺で 一番大きい総合病院。その精神科病棟での昨日の
夜遅く。
いくつかある保護室という 患者さんを保護するためにある病室。
「俺は リィズ、リィズ・ワズマン。」
「フェアリイ症候群、と言う病気だ。」
「病名は、俺が勝手につけた。」
「医者が言うには、幻覚と会話をしているそうだ。」
夜9時の消灯時間を過ぎて 部屋は 水洗トイレの 小さな明かりだけが付いている。
総合病院だから 大勢の患者さんが入院していて医療関係者の職員が勤務している。
でも 俺の部屋は静かだ。
今は眠る時間。どこからともなく 赤い色の光の小さな球体が 部屋に入ってくる。
「やあ、今夜も仕事かい?」
「ふふ、あなたは あいからわず暇そうね。」
「まあね、モニターで職員の人が見ているからね。患者さんの安全が第一だからね。」
「病歴も長そうね。」
「君はなんでも お見通しなんだな。」
「あなたのことだけね。」
「おっと 今、職員の看護師さんが 見回りに来るところだ。」
「ワズマンさん。どうかしましたか?」
「いえ、独り言です。幻覚と会話していました。」
「おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
ガタン
二重になっている 扉の外側が閉まる音。
内側の扉には 鍵がかかっていて 鑑別所みたい。
窓側には、鉄格子がハメられていてさしずめ俺は囚人みたい。
「そんなに悲観することはないわ。」
「あなたは 世界を救うために自分の人生を犠牲にしたのよ。」
「脳の思考を読み取っているんだな。」
「ええ、そう。」
「そして 何が目的なんだ?」
「私の目的は あなた あなたが欲しい。そして救いたい。」
「君の人生は どーなっているんだ。君は人間なのか?」
「メタモルフォーゼ。」
「メタモルフォーゼ?」
「拷問でもうけたのか?」
「今は 知らなくてもいいわ。」
「君は なんでも知っているが、俺は 何も知らない。」
「フェアじゃないな。」
「ええ、今はね。」
扉の左下に 食事を食べる 台座がある。外側とのコミュニケーションの場だ。
暗がりの中で メモ用紙とペンを取り出して。
紙に メタモルフォーゼと書く。
「君と会話した記録だ。」
「私は アン。」
「君の名前?確かかい。嘘を言うのも君の権利だ。」
「今は信じて、としか言えないわ。」
「私の名前は メモしないの?」
「ああ、今はね。」
「このメモ用紙だって本当は 入院時の説明用紙だからね。」
「裏側は真っ白だろ?」
「俺に必要なのは 紙とペンだ。」
‥‥‥‥‥‥‥
いつの間にか 俺は眠りに入っていた。
睡眠薬が効いているのだな。
ガタン ガラガラ
「ワズマンさん おはようございます。」
「う、ん。・・・おはようございます。」
「朝の 採血をとりますので。」
ガチャガチャ
「はい。左側でお願いします。」
「はい、チクッとしますよ。」
見ると怖いから わざと見ない。あさっての方角を見ている。
「もうじき朝ごはんが来ますからね。」
「はい」
それにしても最近の精神医療は 昔と正反対だ。
昔は 散歩に行け。草刈しろ。農作業しろ。雨降りなら階段昇降だ。頑張れ頑張れ。
だったのに。今は、何もしないで。刺激を受けないように。安静にしていてください。
180度 変わったみたいだな。医療方針が。
朝の起床から、夜の消灯まで何もしないというのは、ひどく時間がゆっくり流れる。
ここは ビルの6階らしい。遠くまで 景色が見える。外来患者用の駐車場が見える。
人が 歩いて行き来している。
でも暇すぎて死にそう、ということにはならないのは、俺が病気のせいだろう。
まもなくして朝ごはんが運ばれてきた。ここのご飯て美味しい。
「ワズマンさん、ごはんですよ。」
「はい。ありがとうございます。」
ご飯を モグモグ食べながら。昨日の彼女との会話を思い出す。自分の病気の幻覚ならば
あんなにリアルだろうか?
悪霊とも思えないし。言えることは、俺が 何か渦の中にいるってことだな。
とりあえずこの病院を早く退院して、彼女の所在を確かめること。
病気になったのも
俺と言う人間リィズ・ワズマンが この世界のマスコミに付け狙われていること。
それは 俺が この世界の存在に関わる人間だから。
それから一週間。彼女は毎晩現れた。そしてくだらない内容の会話を交わした。
それでいい。くだらないほうが俺は救われるから。
ひとつだけ彼女に注文をした。もしも俺の中に悪霊が入ってきたら。
そのときは逃げろ、と。
過去に何回か低級霊や悪霊にとりつかれたが、苦労する人生のせいで皆改心してくれた。
俺には何も与えられなかったが、時間だけは有り余るほど与えられた。
だから苦労することがその答えなのだろう。
一週間後に彼女が来なくなったとき、自分にネガティブな波動が付いているのがわかった。
8日目に ドクターと面会して なんとか退院してもいいですよ、と言ってもらえた。
年老いた両親が迎えに来てくれた。
俺が車を運転して やっと自宅へ帰宅した。
「うん」
「ブウーン」
高速でパソコンが立ち上がる。インターネット検索でも、アンだけではわからない。
ある日彼女が つぶやいた。
「ポトフ30番地」
自分の住んでいるチョモル市サンマル町の隣の町。繁華街が多く連ねる旧市街だ。
自分の車を運転してその番地を目指す。
ネオン街の さびれたバーだ。準備中と書いてあったが、入口があいていたので入口から中に入った。
キイ・ガチャン・カラカラ
若い女が店番をしていた。タバコを吸っている。
「ゴメンネ、まだ準備中なの。」
「いや、実は 女の娘を探してるんだ。」
「はあ?」
「ここにアンという娘はいるかい?」
「お客さん、客じゃないのかい?」
「ごめん、また来るよ。」
「営業中に来てねー。」
帰る素振りをしてから店の裏口に回った。
狭い。裏口があって 食材とか残飯とかが無造作に置かれている。若い女が、(さっきとは別人の)残飯の片付けをしていた。
「何?」
わずらわしそうに声をかけられた。
「君の名前はアンかい?」
「何を言ってるのこの人は?」
「違うのか、ここじゃないのかな」
「あなた借金取り?」
「ここに何か用?」
「用がないなら帰ってよね。」
「こっちは暇じゃないのよ。」
女は ひどく機嫌が悪そうだ。
「あ・・・た・・・」
「!」
「は?何?」
「こ・・・いけ・・・」
違うこの娘じゃなく 違うところから声は聞こえる!
「念話か!」
「アンっ!どこにいる!」
はっ下水道!
目の前にあるマンホールのフタに耳をくっつける。
「あんた頭大丈夫?」
かすかに声が聞こえる。
「ここにいてはいけない、奴らが来る!」
「君はアンかい?」
「早く帰って!」
「わかった」
「あんた頭おかしいんじゃないの?」
「うん、病気なんだ。」
すぐに退散せねば。
「手間をかけたね、もう退散するよ。」
自分の車を運転して 自宅に帰る。
運転中に久しぶりに彼女との念話が成功した。
「あなたとの念話は 唯一のホットラインなの。」
「ただ、あなたとの約束を守っただけ。」
「ああそうか、低級霊がついていて体が汚れているのだな。」
食塩を使って少しでも清めねば。
自宅の風呂に。スーパーで買った あら塩1キロを入れてお清めをする。
「これだけでも足りないのだろうな。」
「こんばんは」
「アンか、久しぶりだね」
「元気だったかい」
「ええ、あなた」
「まだ 出会いも済ませていないのに、夫婦(めおと)かい?」
「運命を狂わされているのよ。」
「なんだって?」
「歴史を変えられているのよ。」
「それはうなずける。俺の人生は何か変だ。」
「ええ、それはあなただけじゃなくこの世界の住人全てに当てはまるわ。」
「この世界の住人・・・」
「あなたの選択した夢が正しかったのよ。」
「ちょっと待ってくれ、惑星再構築の夢のことかい?」
「ええ」
「俺は その夢を見たから病気になったんだぞ?」
「ええ、あなたの病気は、あなたをかばってくれた。」
「病気だから?」
「そう」
「今から5千年前、人類の文明が始まってからの約束なの。」
「オペレーション」
「そう」
「リヴァイアサン」
「そうよ、オペレーション・リヴァイアサン。」
「なぜこの言葉を知っているのだろうか。」
「俺、リィズ・ワズマンがリヴァイアサン。白いクジラなんだな?」
「ええ、だからあなたは あらゆるこの世界の住人に蹂躙された。」
「じゃあ君も・・・・」
「私は女だから何も言えないわ。」
「十年前!」
「やっと思い出した?」
「俺が 交通事故を起こした相手の あの女の子か!」
「やっぱり覚えていてくれたのね。」
「君は 何も怪我はないと言ったが、本当は怪我をしていたんだな?」
「俺に気を使って・・・・」
「もう、もういいのよそのことは。」
「大切なことはこれからのこと。」
「インターネットを見ている?」
「ああ最近、アカシックレコードのページでankareさんのページに夢中なんだ。」
「ふーん。ふふ。」
「なんだい。何がおかしい?」
「ankareね?」
・・・・・・・・
「あ、あ、アン彼。」
「ご名答。」
「なんてことだ。」
「君はどこまでも俺の味方なんだな。」
「そして、あなたはどこまでも私の味方。」
「ギブアンドテイクかい。」
「あなたへの報酬が私なのよ。」
「やれやれ生きているものだな。」
「こんな不幸の先生みたいな俺にも運があるのか。」
「その証拠に、あなたは何も呪われてはいない。」
「そ〜いえばそうだね。」
「だからあなたは 低級霊を浄化し供養も出来るのよ。」
「君は俺のことをどこまで知っているんだい?」
「あなたが産まれてから死ぬまで。」
「やれやれ可愛いい女神さまに好かれたみたいだな。」
今夜はもう寝よう。明日また動くために。
「はいおやすみなさい、ダーリン。」
「う・ん・・・」
「あなたって本当に色っぽい男ね。」
「なんだアン。寝ている間ずっと俺の中にいたのか?」
「口が臭いわ」
「あなたなぜ歯を磨かないの?女の娘に嫌われるわよ?」
「いいんだよ。てか人の唇を奪っておいてよく言う。」
「あなたってどこまでもいい人なのね。」
「そこが悪いのよ。女の娘に好かれる原因ね。」
「くやしい。」
「なぜ君が悔しがる?」
「あなたみたいなお人好しだらけなら私は苦労しないのに。」
「君の思考は、年老いた俺とは違うんだね。」
「あなたは自分のテレパシーで他人に迷惑をかけまいと嫌になるくらい苦しんだわ。」
「うん」
「だからよ。」
「え?」
「私たちは 絶えずあなたを心配しているわ。それだけは知っていて。」
「私たち?」
「そう、あなたは孤独なんかじゃないわ。多くの仲間が存在する。そして今でも、あなたを見守っている。」
「盗撮のはなしかい?」
「あなたはピエロだけじゃなく。囮の役目も自ら選んだわ。」
「自己問答かい?」
「そしてお笑いのセンスも抜群。」
「こんなにいい男を世の中の女たちは、くやしい。」
「授業の代返頼まれてくれる?」
「この世に あなたほどいい男はいないわ。」
「ありがとう。」
「くやしい」
「君はよっぽどの俺のファンなんだな。」
「ごめんなさい、あなたの生活が止まっているわ、いま。」
「ああ、いいんだよ。まだ仕事に行けるほど 精神状態は元気じゃないからね。」
「それと、あなた。私たちのアジトを探したいみたいだけれど。」
「ひとつ忠告しておくわ。」
「なんだい?」
「私とあなたは、ふたつでひとつ。」
「なんか意味深だね。」
「じゃなければ退屈でしょ?」
「うん」
「くやしい」
「なぜ?」
「あなたほど素直な人間がまだ生き残っているなんて。」
「やれやれ誉め殺しかい?」
「あなたに出会えて私はラッキーです。」
「はいはい」
「はいは一回。」
「はい」
「あなたって素敵。」
「夫婦(めおと)漫才みたいだね。」
服を着替えて、朝食を取らず、昨日行ったポトフ30番地へまた行った。
今度は入口にはよらず、直接裏通りに向かった。
さいわい裏口には昨日のガラが悪い女はいなかった。
「マンホール」
周囲に人がいないのを確かめてから。マンホールの蓋を外そうとする。
「お、重いなこれ・・・」
「ふん・・・・」
ゴト・・・・
なんとか外すというよりずらすのに成功した。
「下水道から聞こえてくるということは、本当に地下組織なのか?」
「シャレが含まれているのかな。」
「う、臭い」
下水道が通っているせいで、ひどく臭い匂い汚物の匂いがしてくる。」
「もうあとには引きませんよ」
決心して はしごを中に降りていく。
「けっこう狭いんだな。」
直ぐにそこについた。
「くらいな」
昼間でも 光が差し込まないせいか、外とは正反対に薄暗い。
一本の通路になっている。
「どっちがわに行けばいいのかな」
「!」
壁に 赤い顔料で 矢印が書かれている。
「口紅で書いたのかな。」
「罠かな、それとも正直?」
「こっち側か」
狭い通路を 腰をかがめながら前に進む。
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