1人が本棚に入れています
本棚に追加
少年は唇を噛みしめ、睨みつけるように真正面を見つめている。その横顔は、自分と衣鶴のどちらにも似ていた。栄次は、そっと少年に近付き、頭を撫でてやった。片手におさまる小さな頭は、驚くほど手になじんだ。まるで、ずっと前から知っていたかのような感触だった。
この子は本当に俺の息子なんだな。心のどこかに残っていた疑いが消えていく。栄次は手を頭から肩にやり、傍に寄せた。少年は抵抗しなかった。
こんなに暖かいのに、死んでいるんだな。それがどうにも不思議で、やるせなかった。
「たかゆき! ちゃんと立ちなさい!」
突然後ろから怒鳴り声がして、少年が驚き、後ろを振り向いた。栄次も何事かと思い、目をやる。すると、三十代くらいの母親の足元で、幼稚園児くらいの男の子が座り込んでいた。
「いやや。だっこー」
「あかん。ちゃんと立ち。立たんとおいてくで」
「いややー」
男の子は母親の足にしがみ付き、駄々をこねだした。少年はその様子をじっと見つめている。表情は凍りついたように、微動だにしない。
「どうした?」
最初のコメントを投稿しよう!