300から66への手紙

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栄次が声をかけると、少年は「別に」とそっけなく返し、視線をまた前に戻し、さっさと歩き始めた。栄次は後を追いかける。きっとあの母親と衣鶴を重ねあわせたのだろう。まだ九歳なのだから、もっと親に甘えたかったはずだ。やりたいことだって、いっぱいあっただろうし、将来の夢も持っていたに違いない。 栄次は親子の方へ振り返った。子どもは相変わらず、ぐずっていて母親は「ほら、たかゆき」と腕を引っ張っている。 なぜか、その様子に後ろ髪を引かれたが、視線を前に戻し、少年を追いかけた。  どうにかしてやりたい。そんな気持ちばかりが大きくなっていく。だが、どうすることもできない。足取りが徐々に重くなる。少年との距離がどんどん開いていった。心は足を急かしているのに、身体が言うことを聞かなかった。  舌打ちをし、ため息をつく。首を回し。頭を掻きむしった。
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