300から66への手紙

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 小説やドラマなどで何度も使い古された陳腐な台詞を、まさか現実世界で自分が言うなんて想像もしていなかった。だが、事実なのだから仕方がない。それに、どんな理由があろうとも、少年がやろうとしていることは自殺だ。なんとしてでも阻止しなくてはならない。なにせ、自分の息子なのだから。 「生まれてこなきゃよかった」  少年が蚊の鳴くような声で呟いた。行き交う人々が彼の身体を次々とすり抜けていく。 「そういうこと、言っちゃだめだ」 「じゃあ、お父さんは生まれてきて良かったって思ってるの?」 「思ってるよ。お母さんとも出会えたし」  あまり口を開かずに言えた。まるでずっと前から唇の上にのっていたようだった。 「お母さんと別れたくないの?」  少年がすがるような視線を向けてくる。一瞬、言葉に詰まったが、何とか声を振り絞り、 「ああ」 「お母さん、すっごい悲しむんだよ」 「なんとかする」  力強く言い切るつもりだったのに、声が震えてしまった。 「無理だよ」  少年は栄次と視線を合わせずに言った。 「なんで? 九歳のいつだよ。日にちさえ言ってくれれば……」 「無理だって」 「なんで?」
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