300から66への手紙

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 トイレから戻ると、衣鶴と少年は鳥毛帖(とりげじょう)成文書(せいぶんしょ)屏風(びょうぶ)の前にいた。 「おかえり。よくすぐに見つけられたね」 「まあな」  幽霊がくっついている女を見つければ良いのだから簡単だ、とは言えない。思わず苦笑いがこぼれた。少年は相変わらず、うつむき気味で衣鶴のバックを握っている。衣鶴はおろか、栄次でさえも見ようとしない。 「これ、どうなんだろうね」  衣鶴の声が耳元ではじけた。一瞬反応が遅れ、 「えっ? なにが?」 「この屏風だよ。緑の方に書かれてる種がよく田がよければ実りが多いのと同じように君主が賢くて、家臣が忠義だったら国は豊かになるっていうのはわかるけど、赤のほうの、両親が親不孝の子どもを愛しはしない、それと同じように明君は益のない家臣を受け入れたりはしないってやつはどうだろ? 明君はともかく、親はそんなもんじゃないよね。私だったら、親不孝ものだろうと、やっぱり自分の子どもだったらかわいいよ」  少年が弾けるように顔を上げた。なにか言いたそうに、口が半開きのまま、微かに動いている。栄次はそこから視線をゆっくりと赤い屏風に移した。脳裏にほのかな明かりが灯った。 『父母不愛不孝之子明君不納不益之臣』
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