300から66への手紙

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 もしかしたら、なんとかなるかもしれない。栄次はそっと、少年の肩を叩き、指と口の動きだけで、外に出るように伝えた。少年は、小さく頷いた。 「ごめん、もう一回トイレ」 「ええ、またぁ」  衣鶴の呆れた声を苦笑いでごまかし、栄次は少年とともに、会場を後にした。 「なに?」  少年は吐き捨てるように言った。栄次は口を開き、言葉を発しようとしたが、すぐに出てこなかった。 「ねえ、なんなの?」  尖った声が、胸に刺さる。栄次は深呼吸のようなため息をつき、 「孝之」  言葉が空気に溶けるように消えた。少年の顔色が変わる。やっぱり、思った通りだった。栄次はさらに続ける。 「癌で死んだって話もウソだろ? 子どもの肺癌って、ほとんどないんだぞ。じいちゃんが死んだ原因を、未来の俺から聞いたんだろ?」 「なんでわかったの?」  孝之はウソをついていたことを素直に認めた。 「癌については調べた。名前は、奈良公園で子どもに怒ってたお母さんいただろ? あれ、声に驚いたんじゃなくて、名前を呼ばれたと思ったんじゃないかなって思って」
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