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赤の鳥毛帖成文書屏風に書かれていた、父母不愛不孝之子明君不納不益之臣という文字。きっと、あれが名づけの元だろう。親孝行な子になりますように。仮にならずとも、大切な我が子に変わりはない。そんな意味が込められているに違いない。
「なんで、ウソついたんだ? 癌だとか、名前が思い出せないなんて」
「わかんない」
孝之は消え入りそうな声で、震えながら答えた。栄次はなにも言わず、近付いて行く。怒られる、と思ったのか、息子は身体を硬直させ、目を閉じていた。
「ウソって難しいよな」
ため息と一緒に、言葉を吐き出した。孝之が顔を上げる。怒る気もなかったし、追求する気もなかった。ただ、一つ、どうしても確認しておきたいことがあった。
「お前、本当はまだ死んでないだろ?」
孝之は静かに頷いた。地球の重力から解放されたような安堵が全身に広がっていく。これだけのウソをついていたのだから、死んだ、というのもウソであって欲しいという願いだけで、根拠はまったくなかった。栄次は大きく息を吐き出し、
「よかった」
孝之は俯いたまま、しばらくじっとし、何度も鼻をすすっていたが、それが徐々に小さくなっていくと、
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