300から66への手紙

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「お母さんが、すごく、僕のこと怒るんだ。だから、僕、いらないんだ、って思って、家出したんだ。お母さんとお父さんの部屋に飾ってた写真持って。そうすれば、悲しむって思ったから。でも夜になったら、怖くなって。もう、帰ろうって、急いで帰ったら、車が来て、それで、気づいたら、僕がベッドで寝ているのが見えて、お母さんはずっと泣いてて、それをお父さんが、大丈夫、絶対意識戻るからって、慰めてて」  孝之はしゃくりあげながら、途切れ途切れに語った。栄次は黙ってそれを聞いている。 「もうどうしたらいいかわかんなくなって、こんなお母さんを悲しませちゃった僕なんて生まれてこなきゃよかったんだって思ったら、突然、眩しくなって、気づいたら、鹿に乗ってて、第六十六回正倉院展って書いてある紙を、なんか握ってて、もしかしたら昔のお父さんがいるかもしれないって、思ってたら、本当にいて。びっくりして。だから、過去を変えれば、未来が変わるって思って、それで」  後半はなにを言っているのか、よく聞き取れなかった。涙と鼻水で顔はびしょ濡れで、顔はくしゃくしゃになっていた。栄次は息子の頭を二三度、軽く叩き、 「そっか。それは、大変だったな」 「ごめんなさい」 「うん。もうわかっただろ?」 「うん」
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