300から66への手紙

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「思い出せないんだ。自分がなんて名前なのか」 「なんで?」 「知らないよ、そんなの」  少年はそっぽを向いてしまった。栄次はポケットに手を突っ込み、空を見上げた。なにか他に良い考えはないものか、と頭を捻ってみたが、なにも出ず、脳内はいつまで経っても無色透明に染まっていた。 「なあ、未来の俺って、どんな感じなんだ?」 「どんなって、どういうこと?」 「仕事とか、お母さんとの関係とか、君がどう思っているとか、そのへん」 「お母さんとは、けっこう仲良し。たまに僕とも遊んでくれる。仕事は忙しそう」 「ふーん。そうか……」 「僕が死んだときも、お母さんのそばにずっといて、悲しそうな顔してたけど、泣いてなかった」  なにも言えなかった。将来、生まれてくる子どもが九歳で死ぬ。改めてその事実を突きつけられ、真っ黒な隕石が落ちてきたような絶望が脳天を突き刺した。
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