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お帰りなさい
それから数日後。
山村凌と茜夫婦が切り盛りしている、山村亭。
パティシエである俺、千夜保はケーキ屋の定休日にカウンター席で鈴木が都内に帰って来た、ささやかな祝いをしていた。
「鈴木くん、お帰り!今日は、ゆっくりしてってね!」
山村が、マグロの刺身をカウンター席に置きながら、相変わらず、やかましく言う。
「有難う御座います」
「ああ。山村、日本酒もくれ」
「うん♡はい、お猪口と日本酒、飲み過ぎないでね」
最近になって、ようやく酒が飲めるようになった。
「僕は今日は車なので遠慮しますね」
と、座敷の方に行っていた茜婦人がトレーを抱えて戻ってくる。
「貴方、カニしゃぶ一丁!…そう言えば千夜店主、雅ちゃんは元気?」
「ああ。いっちょ前に彼氏が居る」
雅も歳頃だから仕方ねーのかも、しれねーがなんか面白くねー。
中学の時は鈴木に夢中でダチとファンクラブまで作ったようだが。
「じゃあ、僕のことはもう忘れたでしょうね」
「忘れちゃいねーが良い想い出になったんじゃねーか」
「好きな人って誰ー?」
カニを捌きながら、山村が好奇心丸出しで聞いてきやがる。
「浜崎透。雅の高校時代のクラスメート。店にも、たまに食いに来るが、何より雅が選んだ男だ。邪険には出来ねー」
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