雅の案

1/3
前へ
/94ページ
次へ

雅の案

「で、でも、浜崎くんのカルテなら、この病院に保管されている筈よ。その上で退院出来たんだもの。マラソン大会だって…」 「そのマラソン大会出場の事、医者は知ってんのか?」 お父さんに痛いとこを突かれて私は言葉を呑み込んだ。 ハア…と、お父さんの短い溜息が聞こえる。 「雅…夢を諦めるのは確かに辛い。でも大会の途中で倒れてみろ。協力してる雅にも責任は回ってくるんだぞ」 「私…私は…」 責任を取れる訳が無い。 それに浜崎くんが居なくなる。 それは私にとって恐怖でしかなかった。 浜崎くんは死んでも良いっていうかもしれないけど、私はそんなの嫌! お父さんがさっきより優しい声音で言う。 「雅…悪い事は言わねー。透の為を思うなら説得してやれ」 お父さんはそう言うと立ち上がり、お母さんの入っているお風呂場の方へ向かう。 「久しぶりに母さんの背中でも洗うかな」 と言いながら。 後には私1人が残された。 私はしばらく鈴木研究員の新しい名刺を見つめていた。 その時、私の脳裏にある案が思い浮かぶ。 浜崎くんが良いって言うかは解らない。 でも、話すだけ話してみよう。 そう思った私は、鈴木研究員の名刺を持ったまま自室に向かった。 自室に入った私は机の上に置いてある携帯を手に取る。 そして、浜崎くんの携帯に電話を掛けた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加