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雅の案
「で、でも、浜崎くんのカルテなら、この病院に保管されている筈よ。その上で退院出来たんだもの。マラソン大会だって…」
「そのマラソン大会出場の事、医者は知ってんのか?」
お父さんに痛いとこを突かれて私は言葉を呑み込んだ。
ハア…と、お父さんの短い溜息が聞こえる。
「雅…夢を諦めるのは確かに辛い。でも大会の途中で倒れてみろ。協力してる雅にも責任は回ってくるんだぞ」
「私…私は…」
責任を取れる訳が無い。
それに浜崎くんが居なくなる。
それは私にとって恐怖でしかなかった。
浜崎くんは死んでも良いっていうかもしれないけど、私はそんなの嫌!
お父さんがさっきより優しい声音で言う。
「雅…悪い事は言わねー。透の為を思うなら説得してやれ」
お父さんはそう言うと立ち上がり、お母さんの入っているお風呂場の方へ向かう。
「久しぶりに母さんの背中でも洗うかな」
と言いながら。
後には私1人が残された。
私はしばらく鈴木研究員の新しい名刺を見つめていた。
その時、私の脳裏にある案が思い浮かぶ。
浜崎くんが良いって言うかは解らない。
でも、話すだけ話してみよう。
そう思った私は、鈴木研究員の名刺を持ったまま自室に向かった。
自室に入った私は机の上に置いてある携帯を手に取る。
そして、浜崎くんの携帯に電話を掛けた。
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