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いちばんのみかた
「これ、あなたの子供」
そう言って指さされた先には、どう形容しても平凡としか言いようのないガキんちょが立っていた。
「子供って」
そう言ったまま二の句が継げない状態の俺に向かって、名前もよく覚えていない女が繰り返す。
「そう、あなたの子供」
「それは、生物学上の?」
「他に何があんの?」
問われてまた言葉に詰まる。確かに、育ての父とは育てているからなるものだろうし、顔も見たことのない子供にとって自分が何になれるかと問われれば、生物学上の父しかありえない。
「いやいや待ってくれよ。だって俺ら数カ月しか付き合ってなかったし、お前妊娠したなんて一度も言わなかったじゃんか。さらっと別れてはいさよなら、でなんでこんな何年も経ってからガ…子供つれてくるんだよ」
ガキの前でガキ、という言葉を使わなかった俺を褒めて欲しい位なのに、女の顔が険しくなる。
「だってあの頃のあんたときたら、いつも他の女と遊ぶことばっかり考えてて、とても子供の父親になれそうになかったじゃない。結婚の話したってはぐらかすばかりで、とても言い出せる雰囲気じゃなかった」
「そんなこと言われても。。じゃあなんで今なんだよ?なんで今になって連れてくるわけ?」
必死に言い返すと女の顔が曇った。
「だってしょうがないじゃない。今付き合ってる人が、子供は嫌いだって」
「おい!」
俺は動揺してガキに目をやった。子供の前で言うことかよ。でも、ガキは自分のことを話されているというのにすっかり他人事の顔で、ぼんやりとそこに佇んでいる。今時80代の老人だってお前よりは活気があるぞ、と言いたくなる。
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