9人が本棚に入れています
本棚に追加
☞
「かーっ。なんでうまくいかねえんだよ」
芋を潰して材料を混ぜて丸めて衣をつけてあげる。これだけの工程の筈なのに、コロッケづくりは全くうまくいかなかった。狭い台所のあらゆる場所に小麦粉とパン粉が散らばり、皿の上にはお試しで揚げてみた小振りな残骸が、見るも無惨な姿をさらしている。
休日、珍しく啓太が友達と公園で遊ぶというのをどうぞどうぞと送り出し、俺は張り切って台所に立ったのだった。別に啓太の機嫌を取ろうとか、父親らしいところを見せようとか思ったわけじゃない。ただなんとなく、感情を表に出すことの少ない啓太の、子供らしい笑顔を見てみたいと思ったのだ。美味いものを食えば、大人だって子供だって笑顔の一つは見せるだろう。そう思ったのだが。
「慣れないことはするもんじゃねえな」
頑張っても頑張ってもうまくまとまらないネタを捏ねながら、冷蔵庫に貼ってある学年便りに描いてあるキャラクターに向かって愚痴をこぼす。小人なのか妖精なのか分からないそのキャラクターがあざ笑うかのように笑みを浮かべている。どうせ短期間の父子ごっこだろ、と指摘されたような気がして俺は憮然とした。
最初のコメントを投稿しよう!