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『──近所の──通報で──二葉ちゃん────死因は頭部を──警察は父親である──』
何を言っているのか分からなかった。
目を伏せて話すアナウンサー。こんな事はあってはならないと気色ばむコメンテーター。
美味しかったハンバーグの味がなくなる。お母さんお気に入りのオレンジ色の照明が灰色に変わる。
二葉が死んだ。
死亡時刻は今日の十二時半頃。私が、あの家の前に居たのもその時間。
……私のせいで、二葉が死んだ。
箸を投げ捨て、靴に足を捩じ込んで。夜の冷え込む空気の中に飛び出す。後ろからお母さんの声が聞こえたけど、どうでもよかった。
早く、目が覚めて欲しい。
そしたら真っ先に二葉にこの最低な夢を話そう。一花ちゃんがそんな事する訳ないのにねって、二葉なら笑い飛ばしてくれるから。
だから早く。
「あっ」
小石を踏んで、滑る。打ち付けた膝と掌が痛い。
「……あ、あ」
ちゃんと痛かった。……夢じゃ、なかった。
『一花ちゃん』
冷たい風に乗って、二葉の声が聞こえた気がした。顔を上げても、二葉はいない。月も星もない真っ暗な空があるだけだ。
その耐え難い現実に、やっと目が覚めて。懺悔する様に額をコンクリートに押し付ける。
「……ごめんなさい」
私は貴女のかっこいい一花でいたかったの。
私はただ、おめでとう。頑張ったねって、言って欲しかっただけなの。
私達が出会わなければ皆幸せになれるって。馬鹿みたいな考えを真実であるかの様に思い込んでしまった。
正気じゃなかった。だからと言って、犯した過ちは消えたりしない。
どれだけ後悔しても、二葉は戻ってこない。もう二度と陽だまりの様な笑顔を向けてくれないのだ。
『おめでとう一花ちゃん。これで一花ちゃんは幸せになれるね』
私を包み込む様に吹く二葉みたいな風が、そう言ってる気がして目を瞑る。
二葉は死んだ。お母さんは優秀な子を喪った。残ったのは、出来損ないだけ。
皆を不幸にしただけ。
ごめんね二葉。やっぱり私は、神様に嫌われているみたい。
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