思い出のレゾナンス

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 ある日目が覚めると私は病院のベッドの上にいた。ベッドの周りを囲むカーテンをずらすと、窓から景色が見えた。ここはたぶん2階か3階。すこし懐かしく感じる見たことがある景色を知らない場所から、私は初めてのように眺めた。窓から熱すぎない陽が差し込んだ。私は瞳の奥でまぶしさを感じた。少し頭痛がして、それから私は左足が傷むのに気が付いた。布団をめくると、左の足首がギプスで固定されているのが見えた。頭側の壁には、医療用の機械を取り付けるデバイスがたくさん埋め込まれている。どうやら私は入院している。どうしてかはわからない。そして私はどうすればいいのかわからなかった。枕元に緊急用の呼び出しボタンがあって、押してみようかしばらく悩んだあと、私は何か思い出せることがないか考えてみた。ベッドの脇の棚の上にテレビがあった。でも映らなかった。利用するにはカードがいるらしい。棚の中の冷蔵庫には何も入っていなかった。私は自分のベッドの周りのカーテンをすべて開けて病室を眺めた。カーテンの開け放たれた他の3つのベッドの上には誰もいなかった。この病室には私しかいない。どうりで静かなわけだと思った。  私は一体誰なのだろうかと思った。私はベッドから降りて立ち上がろうとした。でもだめだった。左足のギプスのせいでうまくいかなかった。ベッドから降りるのをあきらめて、私はベッドの上に戻り、足を延ばして再び窓の外を眺めた。斜め下に見える草の生い茂った丘の細い車道や、かろうじてある歩道。目線を上げると広く丸く広がる水平線の海が見える。波がキラキラと輝く、この蒼い海を私は好きで、何度も見に来たことがあるのに、それがいつのことだかわからなかった。  廊下を誰かが歩く足音だけがときおり聞こえてくる。私は、自分の顔を撫でたり、体を触ってみた。自分が女だということはわかる。ショートの髪はぱさついていた。私は、自分の顔を鏡で見たくなって、再びベッドから降た。裸足の右足に重心を置いて、私は何とか床の上に降り立った。右足が冷たい床に張り付く。今度は左足。ベッドに手を付けてバランスを取りながら、ギプスの足先を恐る恐る床に着けた。床に置いてあるスリッパを無視して、ぎこちなく歩きながら私はベッドを離れた。  部屋のドアの入り口付近にある洗面所にたどり着き、私は鏡を見た。そこに映ったのは、少し痩せたショートヘアの女性の顔。これが私? 私は自分の顔さえわからないでいた。しばらく私は鏡を見つめて、これが自分であると認識するしかなかった。たぶん25歳前後。うそ笑いをしてみた。鏡の中の自分が馬鹿みたいに思えた。私は髪を水道水で濡らして髪を整えた。でも、自分の容姿が気に入らなくて、頭を掻きむしった。  しばらく洗面所で過ごしたあと、私は髪を整えてベッドに戻った。病室の外に出てみる勇気はなかった。ここが病院なら、そのうち誰かが私を診に来るだろう。私は窓際のベッドへ戻った。ベッドの上に上がろうとしたとき、左のギプスの足が滑って、私はベッドの横の床の上に転んでしまった。その時、誰かが駆けてくる足音が聞こえて誰かが私の肩を揺すぶった。 「琴音(ことね)! 大丈夫?!」  両手で私の肩をぎゅっと抑えながら、知らないおばさんが私に聞いた。 「私、大丈夫ですから」 「琴音! 意識が戻ったの?! しゃべれるようになったのね!?」  おばさんはとても嬉しそうに私に言った。おばさんの目から涙が溢れそうになっている。私はそのおばさんの力を借りてベッドの上に上がった。 「ありがとう。おばさん」 「おばさんって・・・。琴音・・・」  おばさんが戸惑っている様子を見て、私も言った。 「おばさん『ことね』って何ですか?」 「琴音、琴音はあなたの名前でしょう!?」 「私の名前? おばさんは誰?」 「私は琴音のお母さんでしょ!?」  私にはそれも認識できなかった。 「私、おばさんのことなんて知りませんよ。それに、私の名前は・・・」  私は自分の名前がわからなかった。 「琴音、あなた、記憶が・・・」  そう言って泣きながらおばさんは私を抱きしめた。  
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