クルニア共和国国立ギルド 14

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クルニア共和国国立ギルド 14

 ポーション製作依頼を受注し、成り行きでサンドルフ商会と専属契約を結んでしまったその後、みっちりとジーアに説教を喰らった翌日には、さっさと中級ポーションを20本作って納品した。 すると、在庫不足だからと言って、さっそく中級ポーション100本の追加注文を受けることとなった。ジーアの指摘が正しかったことに愕然としながら半笑いで了承を伝えると、僕を見ながらカーリーさんはニヤリと笑っていた。その様子はまるで、「あの契約書の内容を理解したようね」と言っているかのようだった。 僕は落胆しながらギルドへと向かい、依頼達成の報酬を得ると、受付嬢さんから知力ランクの昇格について話された。 曰く、専属契約を商会と結んだことで、能力を認められたとみなすとの事だった。カーリーさんの陰謀のおかげでもあるのだか、結果としてギルドランクはDEランクへと昇格することができた。 それから数日は、ギルドの依頼は受注することが出来ずに、学院への報告書を書きつつ暇を見つけてはポーションの製作をする羽目になっていた。ただ、報酬もそれなりにあるので、作れば作るほど懐が潤っていく。 一応、専属契約の場合でも、学院在籍中は報酬の2割を学院側に納める必要があるとはいえ、3回も中級ポーションを納品する頃には個人証に表示される所持金が100万コルも増えていた。  そうして、ギルドに登録してから一月が経過した9の月のある日、突然学院から全生徒に対して緊急集会の連絡がなされた。 「アッシュ、今日の緊急集会の内容って知ってる?」 「ん?あぁ、まぁな・・・」 講堂に向かいながら隣に並ぶアッシュに質問すると、彼はどこか歯切れ悪く返答して、表情も青ざめているようだった。ジーアも同じように表情が固く、何事か情報を掴んでいるようだ。 「アッシュってば、何か知っているようなんだけど、私にも話してくれないのよ?何でも箝口令が敷かれているって言って・・・」 アッシュの隣に並ぶカリンは、唇を尖らせながら不満げに愚痴を溢した。 「箝口令って、よっぽどの事かな?そう言えば、あの商会からのポーション製作依頼が最近桁違いに多くなってきている気がするけど、何か関係あるのかな・・・」 専属契約になってから100本位の製作依頼だったのに、前回の時なんて1000本の依頼だった。正直、それほど大きな商会でもないのに、いったい何処にこれほどのポーションを保管するのだろうかと疑問に思ったほどだ。 「ふ~ん、そう言えば最近エイダはずっとポーション作ってるもんね!」 「せやったね。最近エイダはんお手製のポーションは、その界隈では品質も良くて高評価らしいで?」 「へ~、さすがエイダだな。幸い、貰ったポーションを使うような状況には陥ってないけど、もしもの時には使わせてもらうぜ」 「まぁ、そんな時なんて来ない方が良いんだけどね」 「ははは、まぁ、そうだな・・・」 僕の言葉に、アッシュはやっぱり力無く言葉を溢していた。 「これより緊急集会を始めます!皆さん良く聞くように!では、学院長お願いします!」  講堂に入ると、この学院の大勢の生徒達がひしめき合っていた。もしかしたらこの学院の全員が居るのではないかという位の人数だった。同じ学年の生徒ならたまに見るのだが、上級生の姿はあまり見ることがない。 聞くところによると、2年生からは知力系と武力系の選択制になるらしく、貴族の子弟だけあって大半の生徒は知力系を選択して、普段は教室にて授業を受けたり、ギルドの知力系の依頼をこなしているのだという。武力系のコースを選択するのは、全体の3割にも満たないらしい。 そんなことを思い出しつつ講堂を見渡しながら、複合コースの僕らは端の方で集会の始まりを聞いていた。司会の先生の短い挨拶が終わると、壇上に学院長が登っていった。 「え~、皆さん既に聞き及んでいる者もいるかもしれませんが、まずは本日、緊急にこのような集会を行った理由から伝えます」 そんな前置きと共に学院長の話は始まった。 「つい先日、この都市を警備する騎士団から、大森林にてスタンピードの兆候を観測したとの報告がなされました!」 「「「ざわざわざわ・・・」」」 学院長の言葉に、講堂に集まった生徒達からは驚きの声だったり、やっぱりかという声だったりと、自分の周りの人達と何やら話し始めていた。 アッシュやジーアは、スタンピードという言葉を聞いて表情を引き締めているようだった。どうやら学院長の言うように、事前にこの情報を知っていたのだろう。 (スタンピードか。確か父さんが言うには、魔獣が増えすぎて縄張りから溢れてしまい、食料を求めて人里を襲うって言っていたな・・・) 本来魔獣達には縄張りがあり、餌のために互いの縄張りを掛けて争うことは珍しくない。もっと言えば、お互いを餌のように捉えているのかもしれないと言っていた。しかし、魔獣達は互いに殺し合ってはいても、その中で増えすぎず減りすぎずと、自然とバランスはとれているらしい。 ただ、何かの影響か、そのバランスが崩れて魔獣の数が著しく増加し、飢えた魔獣達が餌を求めて人里に溢れてくるようになる。この場合の餌は人間そのものだが、それがスタンピードだ。 とは言え、この都市には大森林が近くにある事もあって、そうならないように騎士団が定期的に魔獣達を間引いていると聞いていたのだが、今回は何か不測の事態でも起こったのだろうか。 「皆さん!静粛に!!」 司会をしていた先生が、ざわめきの収まらない生徒達に向かって声を上げていた。先生の諌める声に反応するように、生徒達の声は次第に収まっていき、続く学院長からの話を待った。 「この事態に際し、騎士団は都市を防衛するべく作戦を策定し、ギルドからもその作戦に参戦する者を募っているということです!ただし、特段の例外に該当しない限り、参加可能なのは、武力のギルドランクがD以上の者としています!また、本日をもってギルドの武力系依頼を一時凍結!別命あるまで受注中の依頼であっても、何もしないようにとの事です!」 学院長は今回のスタンピードの規模や作戦の開始時期などの詳細は伝えてくれないが、どうやらギルドからの要請もあって、学生にもその作戦とやらに参加依頼が来ているのだろう。 「勿論、本作戦に際して生徒の皆さんが最前線に立つことはありません。都市の外壁周辺もしくは、大森林の入り口から少し後退したところに防衛線を敷くとの事ですので、比較的危険の少ない場所への配属となるでしょう。また、学生の皆さんの参加は強制ではありません!しかし、この都市を、住民を守りたいという考えの者が居れば、作戦に参加することを学院としても推奨します!そして、その勇気に称賛を示す意味でも、学院として活躍に報いるべく評価したいと思います!」 結局のところ、参加させたいのかさせたくないのか良く分からない話だ。学院長の話に頭を悩ませていると、ジーアが小声で話しかけてきた。 「(エイダはんはどうするん?作戦には参加するんか?)」 「(う~ん、別に参加してもそれほどメリット無さそうだしな。学院長も生徒に参加させたいのかいまいち良く分からないし・・・)」 「(この学院としては、多少参加させたいらしいで?)」 何か裏事情を知っているのか、ジーアは訳知り顔だった。そんなこそこそ話に、横で聞いていたカリンも入ってきた。 「(ジーア、何か知ってるの?)」 「(この学院は、そもそも貴族の子弟の為の学院と言っても過言やない。そんな学院の生徒が誰一人都市のため、国のための作戦に参加せんとなったら対面が悪いやろ?特に民衆からはな?)」 「(なるほどね。将来国を背負う立場に近い貴族の子供が、どう行動するか国からも民衆からも見られてるって訳ね)」 カリンが理解したとばかりに、自分の考えを披露してくれた。 「(せやね。それに今回の作戦は、特に実家を継ぐ予定の無い、次男以下の生徒達が参戦するやろうな・・・)」 ジーアは少しバツの悪そうな表情で、そう推測していた。 「(ここで少しでも武功を立てて、将来の就職を有利にしようって言うこと?)」 僕の確認の言葉にジーアは小さく頷いた。その様子を見ていたカリンは、心配した眼差しでアッシュの方へと視線を向けていた。ジーアの読み通りだとすれば、侯爵家の次男であるアッシュの作戦参加を心配しているのだろうが、そもそもアッシュは武力ランクがEなので参加できないはずだ。とはいえ、疑問に感じることもあった。 (そう言えば、この講堂へ移動するまでの間、アッシュの様子が少しおかしかったし、口数も少なかったな。もしかして、本当に作戦に?でも、アッシュのランクだと無理なはず・・・後で本人に聞くしかないか) 僕やカリンの視線には気づいているだろうが、アッシュは僕らの方を見ようとはしなかった。ただ真っ直ぐに前を見据えて、厳しい表情で学院長の話を聞いていた。 「それでは、作戦に参加の意思があれば、担任の先生にその旨を申し出るように!ポーションなどの消耗品については、可能な限り学院からも援助しますので、申請を忘れないようにしてください!」 そう締め括って話は終わった。学院長が壇上から降りていくと、講堂の生徒達は近くの人達とどうするかの話し合いをしているようだったが、聞こえてくる声は大抵参加しないという話だった。 (さて、どうなるんだろうな・・・)  教室に戻ってからもアッシュは無言だった。さすがのジーアやカリンも聞き難そうだったので、意を決して僕が話し掛けた。 「あ、あのさ、アッシュ?ちょっと聞いてもいいかな?」 「・・・俺は親父から参加するように命令されてるよ」 「「「っ!!」」」 僕が核心を聞く前に、アッシュは何を聞かれるか分かっているといったように、苦笑いをしながら答えてくれた。その返答にみんな驚いて固まってしまった。 「な、何でアッシュが?だって、あなた武力ランクはEじゃない!?」 真っ先に正気に戻ったカリンが、アッシュを問いただしていた。彼の様子から、そうなっていることをある程度予想していたのだろう。 「学院長も言っていたろ?特段の例外が無ければってな。俺はその例外だよ。なにせ、軍務大臣の息子なんだからな。まだ学生の俺が作戦に参加すれば、民衆にロイド家の愛国心の高さを見せつけられる。ようは民衆からの人気取りと、周囲の貴族へのアピールさ・・・」 アッシュはロイド家の目論見を、吐き捨てるようにカリンに向かって話した。 「それって、あのお兄さんも参加するってこと?」 カリンの質問に、アッシュは半笑いになって口を開いた。 「まさか!兄貴はロイド家にとって大事な跡取りなんだぜ?万が一の事も起きないように、参加するのは俺だけだよ!」 「そ、そんな・・・」 アッシュの返答に、カリンは両手で口許を押さえながら目を潤ませて彼を見つめていた。既に(くつがえ)す事が出来ないのを分かっているのか、何を言っていいのか分からないといった様子だ。 「アッシュはそれでいいの?」 カリンに代わって僕が聞くが、彼は表情を動かさずに答えた。 「良いも何も、これが貴族ってもんなんだよ、エイダ。当主の意向には逆らえない。一応まだ学生と言うこともあって、そんな危険な場所には配属されないから、そんなに心配しなくても大丈夫だって!」 無理をした笑顔を僕に向けるアッシュに、僕は考える。 (アッシュは僕の初めての友人だ!そんな彼を一人で危険な状況に送るようなことは、出来ればしたくない。となると・・・) 「エ、エイダはん?あんた、もしかして・・・」 僕の様子から何を考えているのか察したのだろう、ジーアが少しの困惑と共に視線を向けてきた。 「・・・僕もアッシュと一緒に作戦に参加するよ!」
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