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22号室(午前10時)
どうしてこんなことをしているのだろうか。
自分自身の行動が解せなかった。
今、男はふたりで住んでいた町にいた。自分がおりるべき駅で降りなかった。そのまま電車を乗り継ぎ、懐かしい場所へ帰ってきた。
五年前とくらべて、少し風景が違っていた。駅前の店がいくつかいれかわっていた。古いアパートが取り壊され、マンションがたっていた。だがふたりで頑張ったご褒美にとよく買った洋菓子店はまだそこにあった。『クリスマスケーキの予約受付けます』のポップがあり、店番の若い女性が緑色の三角帽子をかぶっていた。
手ぶらってわけにもいかないな。
男は、その洋菓子店でフィナンシェを買った。恋人が好きな菓子だった。
『クリスマスは必ずプレゼントを交換しようね』
商店街をぬけて左の路地をまがると、あのアパートだ。
男は「なにしてるんだろう」と今度は声に出してつぶやいた。きっと不審者に違いない。尋ねられても困るだろう。でも……。男はひとつ深く息をすって、アパートの外階段をのぼった。22号室。ずっとふたりだから、2が並んでるのって素敵ね、と恋人が気にいっていた番号。表札は西村になっている。自分でも恋人でもない、ふたりに関係のない人間が住んでいる。呼び出し音のチャイムをならす。誰も出なかったら帰ろう。ほんとどうかしてる。そう思ったら、ドアが開いた。自分と同じくらいの年齢の女性が出てきた。
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