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『そうだろうそうだろう?あれはいいものだぞ、宗吉も今度やってみろ。良い運動になるし、何よりみんなを驚かせるのは楽しいものだ!』
『あははははっ』
屁理屈をこねられて、家の中に閉じ込められてばかりの彼にとって、僕は数少ない信用のおける友人であったのだろう。専ら、二人でするのは読書をしてその知識を議論するか、あるいはひそかに小説のネタを考えるくらいなものだった。もしくは、時々歌留多遊びをしたり、信者の監視の中で中庭で鞠を蹴らせて貰うくらいか。
友達が少ない分、暇な時間は本を読むことが多かった彼は博識だった。特に、鉄道に関する知識が豊富であった。西南戦争の煽りを受けて政府が財政難に陥り、新しい鉄道が増えなくったことにいたく心を痛めていた。
『戦というのは、愚かなものだ。その愚かさゆえに人は学ぶし、ただ戦が起きる原因をどうこうもせず、外野がただ戦はいけないなどと叫んでも何も変わりはしないが』
ただなあ、と彼は遠い地で起きた惨劇に思いを馳せて言うのである。
『難百、何千もの人々が亡くなっていく。その人々が生きていたら、今後どれほどの発展を皆に齎したかと思うと辛いとも。彼等も、本当は生きて、生きることで誰かに尽くしたかっただろうし……救われたいと願うこともあったろうになあ』
彼が成長し、老いた両親よりも永楽教の実権を握るようになると。永楽教はただの宗教法人というより、孤児を引き取ったり生活に困った人達の駆け込み寺のようなものへ徐々に変化を遂げていくことになったのだった。
それが、彼の願いであったからだ。
神様の声なんか聞こえない、特別な力など何もない、ただ神童と祭り上げられただけの彼が。それでも自分が、生まれながらにやるべき役目だと思ったのがそれであったのである。
聖蓮は、心の美しい人間であった。
きっと僕がそう言えば彼は、“そんなことはない、他にやるべきことがないからだよ”ときょとんとして返してくるのだろうけれど。
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