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教祖に長年信頼されてきた側近ということもあって、僕にもそれなり以上の権限はあった。それこそ、僕が“教祖様もそう望んでおられるから”と一言言えば、信じる人間が山ほどいたくらいには。
今まで、この教団施設は貧しい人々を保護することはあっても、彼等が一人で生きていくための支援は後手に回っていることが多かった。困っている人全てを守るには、この施設は広くはないし金銭も足りない。日頃から、聖蓮はそれに酷く心を痛めていたのである。
ならば簡単なこと。彼等に、一人で身を立てられるだけの知識を身に着けさせればいい。学校に行けず、文字を学べなかった者には文字を教える。山で仕事をするならば山の知識を、海で仕事をするなら海の知識を。家事育児ができるようになるならば、この教団で女中として雇うこともできるし、なんなら人材派遣の仲介も可能となるだろう。子育てに悩む家庭は多い。お手伝いさんをこちらから派遣するだけで、各段に親たちの負担は軽くなるはずである。
そして、信者たちや保護された人達が戦力になるということは。その分、教祖である聖蓮本人の負担も少なくなるということである。
――僕は、変えてみせるぞ。お前を救うため、お前の世界そのものを変える。
「教祖様が倒れられたのは、我々が教祖様に頼り切りであったからこそ。お休みになられなければ、教祖様の御身が持たないと神がそう判断された結果ではないか。だからこそ。……我々は微力なりに、教祖様のためのこの組織を守り、自分達の足で立てるようにならなければならないのではないか!」
――だから、必ず戻ってこい。
「皆の者、学び、励むのだ。我々は皆、聖蓮様に救われて此処にいる事を忘れてはいけない。我々が聖蓮様の真の支えとなれた時、聖蓮様が戻ってくるに相応しい世界となった時、必ずあの方は復活を遂げるはずである……!」
――僕も、頑張るぞ。まだお前と、鉄道ミステリイの話が書けていないのだから。
誰か一人に、犠牲を押しつける世界ではなく。
どうか、どうか。皆で共に、支え合う世界であらんことを。
その一人を心から愛し、守りたいと願う者がいる限り。
「宗吉様!せ、聖蓮様が……聖蓮様が!」
彼がその青い目を再び開いたのは、その二年後のことである。
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