チョコレートとクライマー

魔法のチョコレート

　眼鏡を掛けた水嶋怜子の顔と写真の女性を見比べて、尚人はヘアスタイルは違うが目と鼻のラインと唇の形が似ていると感嘆する。

「コンタクトをし忘れて、不思議だけど度は合ってるみたいですが、最愛の人の大事な眼鏡を私がかけていいのかな？」

「チョコレートのレシピが貴方に届き、僕は彼女が書いた手紙に導かれて此処に来ているのです」

　尚人は魔法は続いていると、真剣な表情で椅子に座り直し、カメラ目線で視聴者に語りかけた。

「僕がツールドフランスを終えて突然引退した理由は最愛の人を事故で亡くしたからだ。ドーピングを疑われ、魔法使いのクライマーと言われ、魔法の箒に乗って走ると選手の時に書かれたが、種明かしをすれば、苦しい時にこのレシピで作られたチョコレートを食べて走り切ったに過ぎない」