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「ドーピングはしてないのですね?」
眼鏡を掛けた怜子が姿勢を正してカメラに視線を向け、自信を持って尚人に質問を投げかける。
「血を入れ替えたりとか。ドーピングをすり抜ける裏技が色々あるらしいですが?違反はしてないと言い切れますか?」
「はい。カメラと貴方の前で誓います。信じられないでしょうが、僕は彼女の作ったチョコレートを食べると、アルプス越えの山岳ステージも飛ぶように走ることができた。つまり魔法使いがいるとしたら、僕ではなく亡くなった彼女という事になる」
尚人はカメラに向かってそう言い切ると、怜子に手紙と写真を渡し、怜子はチョコレートを齧って背中に翼を生やしてロードバイクで走る尚人と、写真の女性が魔法の箒に乗って飛ぶシーンを想像した。
「そろそろ終わりにしませんか?」
手紙に目を通して怜子が顔を上げ、尚人は腕時計を見て笑顔で告げる。
「そうですね。私は金城選手の言葉を信じます」
そこで金城尚人のインタビュー生放送は無事に終了し、二人は席を立って歩み寄り、怜子は眼鏡を外して写真と手紙を返し、尚人はチョコレートのレシピを怜子に渡して握手をした。
「選手じゃない。引退してるよ」
「だって、最愛の人は走ろって書き残し、私は魔法のレシピをプレゼントされた」
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