チョコレートとクライマー

出演条件の提示

　金城の代理人に提示された放送日まで三日間しかなく、スタッフは番組編成と宣伝に追われ、水嶋怜子は書店でロードバイクと金城尚人について書かれた本と雑誌を購入し、都内のマンションの一室で夜中まで勉強して準備を進めた。

　部屋の机の前のコルクボードに金城の記事と写真が貼ってあり、スタンドの灯りで本のページを捲り、ノートに箇条書きでメモした怜子がペンを置いて決意する。

「背伸びせずに、素人代表として素直に疑問点を質問してみよう」

　怜子は金城尚人が自分をインタビュアーに選んだのは新人アナウンサーと、自然な雰囲気で話したいからだと捉え、前日の夜、机の上のジャムのガラス瓶を手にして、中に入った紙切れをノートに挟む。

　同時刻、金城尚人は長野の山奥にあるログハウスのテラスに立ち、星の輝く夜空を眺めて暖かいココア飲み、瞳を潤ませて最愛の女性の笑顔を想い浮かべ、テーブルの上の色褪せた写真と手紙に視線を落とす。