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「二つとも理由は同じだった」
尚人は童顔で海外の選手から少年のようだと揶揄われていたが、引退して無精髭を生やして髪を伸ばし、物哀しい大人の微笑みで怜子を見つめている。
「同じ……私もですか?」
怜子は最初は緊張で手が震えたが、親しみ易い雰囲気と好奇心の視線を感じて自然と疑問が湧き上がり、テーブルの上に置いたノートを開いて尚人と見つめ合う。
「そういえば引退会見で、優勝の決まる前日に引退を決めたと発言してますね。今日と同じ7月22日……」
「よく気付きましたね?」
「さっきメモを読み返して、放送日と同じだと思いました」
怜子はノートを用意した事を謝罪するつもりでいたが、先走って堂々とノートを手にして話している。
「命日なんです。結婚する筈の人が亡くなり、翌日のレース後に引退を発表した。水嶋怜子さんをインタビュアーに指名したのは彼女の遺言」
「でも私は金城尚人さんとは初対面ですし、彼女の事を知っているとは思えません。変ではないでしょうか?」
首を傾げて驚く怜子を尚人は観察し、ノートに紙片が挟まっているのに気付いて逆に質問する。
「もちろん僕も不思議な気分でここに座っている。そのノートの栞は何ですか?ちょっと見せてください」
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