21人が本棚に入れています
本棚に追加
もう1週間も会ってない
忙しい彼 忙しいあたし
クリスマスどこへいった?
パティシエ見習いのあたし
ホテル勤務の彼
クリスマスに会えるわけない
だけど会いたい 会いたい 会いたい
会って、キスして、抱き合って、ベッドに倒れ込んで、抱き合って、朝まで一緒で、朝寝起き一番に彼の顔を見て、寝起きにキスされて、そのまままた朝っぱらから抱き合って、一緒にお風呂に入って、部屋でルームサービスで朝食とって・・・
って、あたしたちにはそんなクリスマス永遠にこないんだわ
彼がホテルマンであるかぎり
あたしがパティシエである限り
クリスマスケーキを徹夜で作って、一日中クリスマスケーキを売って、イブが過ぎても、またほぼ徹夜でクリスマスケーキ作って、また一日中、それこそクリスマスが終わるまでケーキを売る・・・
そして、気が付いたらもう日付は26日なの
26日なんてね、もう死んだように寝る以外することないのよ
そうしてね、次に気が付いたらもう27日
世の中 クリスマスムードなんてもうどこにもないのよ
彼が務めるホテル ザ ファビュラスにある巨大ツリーだってとっくに撤去されてるし、街中に流れていたうっとおしいぐらいのクリスマスソングだってぴたりとやんで聞こえてこない。
別にね、クリスチャンでもなんでもないし、クリスマスだからどうってことないよ?
でもね でもね、一度ぐらい そんなクリスマス過ごしてみたい
バカみたいにドレスアップしてね?
それで、彼にエスコートされて、とびきりステキなレストランへ行くのよ
料理はもちろんフレンチよ イタリアンでもまあいいわ
間違っても焼き鳥屋じゃないわよ 好物だけどサ
ライトダウンした暗めの店内に、それぞれのテーブルにキャンドルの光が揺らめいて、店全体が幻想的な雰囲気なの
ピアノの生演奏なんかが聞こえてきて、あたしたちはゆったりとした時間を過ごすの
そしてね、デザートの時間になったら・・・店員さんがね
って店員さんっておかしいか えっとウェイターさんが、お皿を運んでくるの
そのお皿にはね、うふふふふふふ~
なんと、小さな箱が乗ってるのよね!
何?ってもちろん 中身はうふふふふ~
なんだと思う?
あたしがそこまでまるで独り言みたいに話し続けて、ふいに、隣に座る顰めつらをした男に問いかけた。
「ねえ なんだと思う?ってば」
「……デザートだろ」
「もう!ひねりがないわね~!小さな箱って言ったら指輪よ!指輪!!じゃ~ん!実はプロポーズでした~!!って ね?ステキじゃない?」
「なあ その寝言 いつまで続くの?」
「もう!!寝言じゃないよ!そういうクリスマスが夢だ!って話しでしょ!!」
「…無理 クリスマスイブもクリスマスも26日も仕事だし」
「わかってるわよ ただの妄想でしょ あたしだって仕事よ 26日は休みだけど寝るし」
「妄想って…それを聞かされたオレはなんて反応すればいいわけ?」
「別に何の反応もなくていいよ ただの妄想なんだから
実際のあなたは仕事だし、あたしだってひたすらケーキを焼くだけ
それがクリスマスってもんでしょ ただ妄想するぐらい自由でしょ」
「……ああ」
ハア…そうなのよね
こんな妄想したってむなしいだけ
彼はホテルマンだし、あたしはパティシエだし、そんなクリスマスは一生こないのよ
それに、プロポーズだって無理
だってあたしたちもう結婚してるんだもん
去年ね 結婚したんです。
なのにね、プロポーズにあこがれるのにはわけがあるんです。
されてないんだもん プロポーズ
ある日突然
「オレのホテル 予約早めにいれなきゃすぐにいっぱいになるから予約しといた」
って言われただけ
「へ?何の?」って聞いたら
「結婚式」と答えられた
は?
意味がわからない…
いくら人気のホテルで、彼はホテルの後継者だから自社ホテルで結婚式と披露宴しなくちゃならないからってプロポーズもなしに、予約しとくって意味不明
でもまあ、そんな風になし崩し的に結婚して早一年…
あたしはケーキ屋さん勤務だから毎朝5時起きだし、彼はホテル勤務だから夜勤もあるし
すれ違い気味なんだよね…生活が…
寂しいな~~~~~
最近 休み全然重なってない
一日中 一緒にいたいのに
朝から晩まで、何にもしなくていいから一緒にいて、抱き合って、温め合って、キスして…って
最初の妄想に戻る
要するに、もっと一緒にいたいの 寂しいのよ
わかって?
23日の夜中からあたしはひたすらケーキを焼く
彼は当然ホテルで仕事
クリスマスイブはホテルで最も忙しい日だし、パーティとかあるし、イベントもあるし、イブに結婚式しちゃうような迷惑なカップルもいるし、彼はホテルの企画室室長だし
そしてクリスマス
あたしは引き続き ひたすらケーキを焼くだけ
ケーキ焼きながら半分寝てます。
彼は当然引き続き仕事
25日をすこしだけ過ぎた26日の0時過ぎ、やっと帰宅…
ハア…疲れた…とにかくまずは寝よう
彼は今日も仕事 24日から26日まで泊まり込みって言ってたもんな
ああ 一人でこのキングサイズのベッドに寝るのは寂しすぎるよ
そしてひたすら惰眠を貪り、26日の夕方 やっと目が覚めた。
自宅のベッドで一人目覚めたけれど、やっぱり夫の姿はなし
今夜は帰ってくるよね?
遅ればせだけど、二人きりでクリスマスパーティでもしようかな
あたしはそう思い、起き上がり、着替えて手早く身支度を整えた。
お互い忙しすぎる3日間を過ごしたため、家で食事をするのは3日ぶり、冷蔵庫にはなにもない。
よし!買い出しに行って、ごちそうを作って待ってよう!
そう思い、買い物に出かけようとしたところで電話がなった
「もしもし?香菜?悪いんだけど、届けて欲しいものがあるんだ」
「何?」
「オレの部屋のチェストに置いてる黒いファイルケース。今日必要だったんだ。取りに戻る暇がないから届けてくれない?」
「今日もまだ仕事なの?」
「ああ 今日も帰れそうにないよ 晩御飯いらないから」
「え…そうなの?」
「ああ 悪い フロントに届けてくれる?」
「はあ~い」
ハア…ごちそう計画終了
なんで彼はこんなに忙しいんだろう
ホテルが儲かってるのはいいことだけど
彼が仕事で活躍してるのもいいことだけど
自分だって、ケーキ作るのに忙しくて彼のことほったらかしにしてるんだからおあいこなんだけど
猛烈に寂しい!!!
ちくしょーーーーー!!!!
よし!書類を届けたあと、一人で豪華な食事に行ってやる!
寂しく一人で豪華飯にしてやるもんね!
柊のバカバカ!
新妻(一年たっても新妻かな?)をほったらかしにして離婚されても知らないからね!
あたしは意味もなくちょっとおしゃれをして彼の務めるホテルへと向かった。
フロントで「柏木柊哉の妻の柏木香菜と申します」と告げるとフロントのお兄さんがにっこり笑って「窺っております。こちらへどうぞ」と誘導してきた。
ん?書類をここで渡して終わりじゃないのかな?
エレベーターに乗せられて、上層へとぐんぐん上がっていく
そして、客室のありそうなフロアーで下され、廊下をどんどん進んで行った。
そして、一つの客室の前でお兄さんはドアをノックする。
「お連れしました」
「通してくれ」
中からくぐもった小さな声が聞こえたけれど、確かに彼の声だった。
お兄さんがドアを開けてくれて、促されるまま中へと入る。
おずおずと中へと進むと、中はこのホテルのエグゼクティブスウィートだった。
「柊?こんなところでお仕事?」
部屋の中にある、書斎机の前に座っている柊に声をかけた。
「ああ、もう終わる そこに座って」
そこ というのは、この巨大で豪華なソファのことだろう
あたしは素直にソファに腰掛けた。
彼はカチカチとラップトップのキーボードを軽やかに打ったあと、それを静かに閉じたのち、此方へと向かってきて、あたしの隣に座った。
「お仕事終わったの?これは?いるんでしょ?」
あたしは持ってきたちょっと厚みのある黒いファイルケースを彼に手渡した。
「ああ これから使うんだ。ありがとう助かったよ」
そう言って彼はファイルケースを受け取り、蓋を開けて中身を取り出した。
中から5センチ×20センチぐらい、厚みは2センチぐらいのいわゆるジュエリーボックスが出てきた。
何かの書類と思っていたのに、びっくりだ。
「なにそれ?」
あたしがそう尋ねると彼は不敵な笑みを見せた。
「デザートだろ」
「は?」
意味がわからない
だけど、彼は楽しそうに、そのジュエリーボックスをぱかんと開けた。
中にはキラキラした宝石(おそらく)ダイヤのついたネックレスが納まっていた。
「香菜 クリスマスはとうに過ぎたし、それどころか、来年も、再来年も、君と一緒にクリスマスは過ごせそうにない。
つきあっている間もお前が妄想するようなクリスマスの夢は何一つ叶えてやったこともなかった。
結婚ももうしてしまっていて、今更なんだけど…
愛してるよ」
「へ!?」
唐突な夫の告白に間抜けな返事しかできない
「クリスマスは一緒に過ごせないけど、これからもずっと…一生オレと一緒に居て欲しい」
「…あ…あの…これは一体…」
何が起こっているのかわからなくてしどろもどろで訊ねた。
「プロポーズ」
「へ?」
「プロポーズ欲しかったんだろ?
オレも悪かったと思ってるよ。プロポーズもなしに、いきなり結婚式の予約したりして
あの時はオレも必死だったんだ。
オレもお前も仕事忙しくて、なかなか時間合わなくて、こんなに会えないと振られるんじゃないかって思って、なんとかお前をつなぎとめときたくて、強引に結婚話を進めたんだ」
あのプロポーズなし結婚式予約の裏話を聞くのは初めてだった。
当時はプロポーズもないなんてどれだけあたしに対する扱いが適当なんだろうって思ってちょっと泣けたんだけど。
そんなにあたしのこと熱烈に好きだったんならそう言って欲しかった。
でもでもでも…でもね?
嬉しかったんだよ?
会えなくて不安だったのはあたしも一緒
だってあなたはホテル ザ ファビュラスの後継者だし、あたしなんてしがない町のケーキ屋さんのパティシエ見習いだし
あなたは誰もが振りかえるぐらいの美男子だけど、あたしなんててんで普通の小娘だし
すっごく不安だったの
だから あなたが、強引だけど、プロポーズもなかったけど、「結婚式予約した」って言った時、不満よりもずっとずっと喜びのほうが大きかったんだよ?
「香菜?なんか言ってくれ めちゃくちゃ恥ずかしいんだが…」
「柊!!!大好き!!!
あたしだって 柊に会えない日は寂しいし、会いたいし、クリスマスはこれから先も一緒にいれそうにないし、だけど、大好きなの!
だから全然不満なんてない…てのは嘘だけど
でもいるから!
一生一緒にいるからね!」
あたしがそう答えると、柊はまぶしい笑顔で微笑んでくれて、あたしの両頬をその大きな両手で挟んだら、長く、熱いキスをたくさんくれた。
そして この後は…
って?
それは決まってるじゃない
このあとは、キスして 抱き合って、ベッドに倒れ込んで、抱き合って、朝まで一緒で
朝寝起き一番に彼の顔を見て、寝起きにキスされて、そしてそのまま、また朝っぱらから抱き合って、一緒にお風呂に入って、部屋でルームサービスで朝食とって…
ってするのよ?
クリスマスじゃないけどね
Merry chiristmas☆
最初のコメントを投稿しよう!