4月10日、日曜日①

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4月10日、日曜日①

 後ろに束ねた髪が揺れる。  吉尾紗奈が阪急三宮駅に到着したのは十二時五十分だった。  マズいっ!  改札を抜けて待ち合わせ場所の百貨店の喫茶店へと早歩きで向かう。いい年をしたレディーなのだ。待ち合わせ時間の十分前だからといって、慌てて走りたくない。因みに駅から喫茶店までは歩いて十五分。それでも、息を切らしたり、汗を掻く気はさらさらない。セットした髪型も乱れるし、汗で化粧が落ちてしまっては台無しではないか。  高級腕時計ショップ、ランジェリーショップ、洋菓子店。人混みが多く、様々な店が軒を連ねる地下街を通り抜けて百貨店に入った。  左腕のカルティエに目を遣る。  初任給で友人達とノリで買ったものだ。  待ち合わせの時間を一分半ほどオーバーした。  喫茶店に入り、辺りを見渡す。百貨店の中にあるとはいえ、世界中でチェーン展開をしているこの店には貴婦人方だけでなく、若いカップルや家族連れも多かった。 「お~いっ! 紗奈~!」  振り返るとテーブル席に座った名倉香里が手を振っていた。香里に近付くと、石川将も前下理央もいる。香里も、理央も紗奈と同様にロングスカートを身に付けていた。三人共に流行りのパステルカラーだ。 「ごめえ~ん。遅れちゃって」
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