走れ、俊

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 それは一瞬の出来事だった。 「もう1人で行く!」  そう言って、歩美は石段の方に向かって歩き始めた。僕は再三やめようと声をかけたが、歩美は僕の方を見向きもせず、どんどん先に進んでいく。  仕方なく僕も後ろから歩美を追った。そして、歩美と一緒に石段を上り始めた。  草を掻き分けながら、僕らは前に進んだ。歩美の後ろを僕が歩く。歩美の背中からは躍動感が感じられた。  15分ほど進むと、視界が開けた。  海が一望でき、点々と連なる島々が見える。時折吹く風が汗ばんだ身体を適度に冷やしてくれた。  僕らは足を止めて、崖の上からしばらくその光景を眺めていた。僕もここに入る時の恐怖心を忘れ、目の前に広がる絶景に心奪われていた。 「あ」  足の置き場を変えようと、身体を動かした瞬間だった。歩美は足を滑らせて、大きくバランスを崩した。
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