34人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう、電車に乗って東京に帰ったのかと思ったよ」
「言ったじゃん。ギリギリまでこの辺を見て回って、夕方の電車で帰るつもりだって」
桃はスマートフォンをバッグに入れると、八重歯を見せる。
「ってかさ、もしかしてだけど見送りに来てくれた?」
「まぁ、それもあるけど……」
「それも?」
「俺、実は桃に言わなきゃいけない事があるんだ」
僕は固唾を飲み込むと、真っ直ぐに桃を見据えて言った。
「俺、桃の事が好きだ。
三年前に久しぶりに会った時から、ずっとよ」
桃は驚きで目を見開くが、僕は構わず続けた。
「で、今までこの気持ちを桃に言えずにいた。
桃が好きなのは俺じゃなく、赤塚だろうな、って思ってたからよ。
けど、桃ともう会えない、って思ったら、この気持ちだけは伝えておかなきゃ、と思って……。
もちろん、『好きだ』って言ったからって桃と付き合ったり結婚出来ない、ってのは理解してる。
桃は東京に住んでるし、俺に気持ちなんか向くハズとか無いし。
でも、今ここで言わなきゃ、俺は一生後悔するって思ったんだ」
あまりに自分勝手な告白だったからか、桃は何も言葉を返さず、先程同様目を大きく見開いた状態を続けていた。
「……まっ、そういう反応になるよな。ゴメン」
僕が頭を下げ、逃げるように桃の前から歩き去ろうとした、その時であった。
「初詣のお願いって、叶えてくれるんだな」
桃が僕の背中に向かって、ポツリと独り言をぶつけてきたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!