【ショート・ショート】踏み出せ、一歩!

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「もう、電車に乗って東京に帰ったのかと思ったよ」 「言ったじゃん。ギリギリまでこの辺を見て回って、夕方の電車で帰るつもりだって」 桃はスマートフォンをバッグに入れると、八重歯を見せる。 「ってかさ、もしかしてだけど見送りに来てくれた?」 「まぁ、それもあるけど……」 「それも?」 「俺、実は桃に言わなきゃいけない事があるんだ」 僕は固唾(かたず)を飲み込むと、真っ直ぐに桃を見据えて言った。 「俺、桃の事が好きだ。 三年前に久しぶりに会った時から、ずっとよ」 桃は驚きで目を見開くが、僕は構わず続けた。 「で、今までこの気持ちを桃に言えずにいた。 桃が好きなのは俺じゃなく、赤塚だろうな、って思ってたからよ。 けど、桃ともう会えない、って思ったら、この気持ちだけは伝えておかなきゃ、と思って……。 もちろん、『好きだ』って言ったからって桃と付き合ったり結婚出来ない、ってのは理解してる。 桃は東京に住んでるし、俺に気持ちなんか向くハズとか無いし。 でも、今ここで言わなきゃ、俺は一生後悔するって思ったんだ」 あまりに自分勝手な告白だったからか、桃は何も言葉を返さず、先程同様目を大きく見開いた状態を続けていた。 「……まっ、そういう反応になるよな。ゴメン」 僕が頭を下げ、逃げるように桃の前から歩き去ろうとした、その時であった。 「初詣のお願いって、叶えてくれるんだな」 桃が僕の背中に向かって、ポツリと独り言をぶつけてきたのだ。
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