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「来年からさ、もしかしたら皆と会えなくなるかもしれない」
2時間程が経過し、宴もたけなわとなった頃だ。
桃は神妙な面持ちとなると、バカ騒ぎする赤塚のはしゃぎ声を遮って切り出した。
「また、どうして……?」
動揺を隠しきれなかった僕は、他の二人に先駆けて桃に尋ねる。
「お父さんが来年で退職するから、もうそのまま家も引き払って東京に来てもらおうと思ってるの。
そしたら、もしお父さんに何かがあった時、私もすぐに対応出来るしね。
で、そうなるとさ、こっちに来ても泊まるトコロが無くなるし、私も付き合いのある会社の忘年会とかパーティーに出てくれって言われてきてるから、今日みたいに『朝まで飲んで年越し』ってのはもう無理かな、と思って……」
「えー、俺、来年も桃と朝まで飲んで年越ししたいよぉ!」
ココで黄瀬が、子供めいたワガママを口にする。
そして、それは僕が桃に対して最も言いたかった言葉であった。
「ありがと、イエロー」
桃は口元を緩めると、周囲にいる僕ら三人をぐるりと見回した。
「ってか、やっぱり三人と再会して良かった。
15年ぶりくらい経って再会した、っていうのに、皆、全然変わってなかったし、むしろ好意的に受け入れてくれたしさ。
正直、東京って生きづらい街なんだよね。
社長としてお店をやっていくには、自分を抑えなきゃいけない場面ばっかりだし、だから原点に戻ろうって思って、三年前に勢いでレッドにメッセ送ったけど、こんな風に毎年バカ騒ぎした年越しをしてくれてホント嬉しく思ってる。
もし、三人と再会してなかったら、私、向こうで社長って皮を被ったまま生き続けて、こうやって素の自分を出せないまま死んでいったんじゃないかな」
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