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ここ三年の流れに沿って、年が変わるまで店で飲んで年越しそばを食べた後、僕達は街に唯一あるカラオケボックスへと行き、そこで体力の続く限り持ち歌を熱唱した。
その後、寝ぼけまなこでカラオケボックスを出ると、僕達はそのまま地元の神社の鳥居をくぐり、初詣を済ませる。
鈴を鳴らし、社の向こうにいる氏神に僕が祈願したのは「来年も桃と会えますように」という、極めて自分勝手な願いだった。
「皆は何をお願いしたの?」
桃は顔を上げると、僕ら三人の顔を順繰りに見つめる。
黄瀬は「宝くじが当たりますように」と答えた。
僕は「来年も桃と会えますように」と正直に答えた。
そして、長い祈願がようやく終わった赤塚は「日本の景気が回復しますように」と、僕らの想像の斜め上の答えを述べた。
「桃は何をお願いしたんだよ!」
赤塚の答えに僕ら三人が笑っていると、さすがに気を悪くしたのか、赤塚は眉を寄せながら桃に迫る。
「ヒミツ、絶対言わない」
桃は笑うと、「ところでさ、三人って彼女っているの?」と、後ろ手で僕らの顔を舐め回すように見つめながら尋ねてきた。
僕ら三人は、弱々しく首を振った。
出会いのある都会なら、僕らのような隠キャでもまだチャンスはあるかもしれないが、寂れたこの地方都市では、女性と付き合うどころか出会いすらままならない。
「何か、バカトリオらしくて安心した」
桃は口角を緩めると、くるりと踵を返す。
そして、「皆、今年もホントありがと。もう会えないかもだけど、私、皆と過ごしたこの年越しだけは絶対忘れないから」と付け加えると、手を振って、実家に向かうバス停の方角へと歩き去っていった。
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