【ショート・ショート】踏み出せ、一歩!

8/13

34人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
桃に続いて僕達三人もバスに乗って帰宅すると、僕は夕方までベッドで仮眠を取った。 その後、母親が作ってくれたおせち料理やカップラーメンなどを食べながら、録画した年末年始の特番やYouTubeの動画を視聴して眠る、といったルーティンを、僕は正月休みの間しばらく続けた。 そして、桃が東京に帰ると言っていた、1月3日の昼下がりだ。 赤塚から『青池、お前桃の見送りどうする?』というLINEが、僕のスマートフォンに送り届けられてきた。 僕は『都合が会えば行くと思うけど、多分行かないと思う』と返信すると、ベッドに横になったまま無目的にスマートフォンを操作し続けた。 しかし、その一時間後。 何を思ったのか赤塚は、「青池ぇ、桃の見送りに行ってやれよ!」と声を張り上げながら、僕の部屋に乱入してきた。 僕は「そこまで言うのなら、お前が行けよ」と、素っ気なく返す。 「俺は、夜から親戚連中と新年会なんだよ!」 赤塚は残念そうに肩をすくめると「黄瀬も用事がある、って言ってたし、行けんのはお前しかいねえんだよ!」と、続けて言った。 しかし、僕は「俺はいいよ」と返すと、赤塚の猛襲から逃げるように布団を頭からかぶる。 「桃と一生、会えなくなるかもしれねえんだぞ!」 赤塚は布団をめくり、冬眠している熊でも起こすかのように声を張り上げた。 「それが分かってるから、行かないって俺は行ってるんだよ!」 僕は赤塚に応酬すると、続けて言った。 「つーかよ……。 桃にしても、見送りとかいらない、って言ってたんだし、あの年越しを最後に会わない方がお互いにとっていいだろ。 変に見送りにとか行ったら、お互い空しくなるのは分かってんだからよ……」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加